Δ146
にわかには信じられないことだ。私がラジエルなんかに後手をとるなんて……誰が優れてても別に気にしないけど、こいつだけは別。私が本気で殺したいと思ってる奴だからね。私は元々そんな自分の能力が高いなんてうぬぼれてなんかない。
私が自惚れてるのは自分のこの容姿だけだ。毎朝鏡を見て自分自身でうっとりするくらいにはこの容姿には自惚れてる。けどそれはしょうがないのだ。だって私は宇宙一の美少女なんだから。私以上の美少女なんてものが存在してしまったら全力でつぶしに行くのは自明の理だ。
だって容姿は私のアイデンティティなんだから。逆にいえば、その他の事はそこまで私にこだわり何てない。もともとが容姿に全部振ったんだから、戦いで一番な訳ないし、頭がいいわけでもない。まあバカって訳でもなかったのはありがたかったけどね。知能指数が低すぎて昨日の事も覚えてられないとかだったら困ったよね。
そこまで最初は考えてなかたっけど、後々に考えたらそういうこともあり得たかもしれないと思うと結構怖い。まあなので私はちゃんと受け入れてる側の人間だ。自分よりも優れた奴がいるってね。だからラジエルが実はすごい奴だった……と認めることも……ううう……やっぱ無理。
ほんとラジエルだけは無理。こいつは私からうさぎっ子を奪った簒奪者だからね。可愛いを私から奪う奴は敵なのだ。
「面白い冗談言うようになったじゃない」
私は努めて冷静にそういった。ラジエルは実際凄い奴なんだろう。そもそもライザップの貴族だし、教育なんかも私なんかよりも高度な物を受けてるはずだ。そして容姿もよくて……もともとが庶民とかとは違う立場。ライザップにいる時はそれこそ青二才の理想主義者みたいな感じだったが……今は種族を超えて尊敬を集めてるみたいだしね。
そもそもなんか王とか言ってるし……そしてそんな持ち上げられる程の事をしてきたんだろう。まあだからって認め何てしないけど。
「冗談か。あまり自身の力を過信しない方がいいぞラーゼ」
そういって片手をあげるラジエル。するとその背後に控えてたモノクロのアンティカの瞳が光った。そして瞬きをするよりも早く、私の眼前に奴の剣が突き出されてた。
僅かに震えた空気が私の髪をなびかせる。グルダフ達がビックリしてるみたい。まあ私も相当ビビってる。もちろん顔にはださない。けど実は心臓バクバクだ。一歩も後ずさらなかった自分を褒めてあげたい。実際尻餅つくかと思ったし、ちょっとお漏らしするかもと思った。
ずるい奴だ……こんな質量的に圧倒的な物体がいきなり目の前に腕だけで剣を突き出して来たら生物的にビビっちゃうでしょ。不思議なことにモノクロのアンティカの本体はいまだにラジエルの後ろにいる。ただその腕の先だけが私の眼前にある。
「これで私を脅してるつもりなの?」
実際めっちゃビビってるけどね。
「ラジエル様これは……」
私から逃げたロリッ子とうさぎっ子がラジエルの傍まで行った。
「二人とも無事だったか」
「そちらこそ、元の姿にお戻りになられたんですね」
そういって涙ぐんでるうさぎっ子。あれ? なんか心の奥からどす黒い物がぐじゅぐじゅと湧いてくる気がする。私は無意識に目の前のアンティカの剣に手をのばして触れてた。その時グルダフたちが何か言ってたけど、目の前でイチャイチャされて聞いちゃなかった。
一瞬なんかはじかれる感じがしたが、それだけで別段なんともない。私はマナを過剰に送りこんでその剣を破壊してやった。
「まさか……ただの剣じゃないんだがな。やはり理の力は絶大か」
ラジエルの言葉で思い出した。そういえば世界の理を変えたんだった。実はさっきの剣は触れるだけでヤバイ代物だったのだろうか? もともと自身の防御力に自信があるからいけると思ってやったんだが……理のおかげで実は助かったのだろうか?
ううむ……ちょっと判断できないぞ。まあいいや、なんか向こうもビビってるし。てかなんであいつがそれを知ってるんだろうか? よく考えるとおかしくない?
「だが、超える手段はある!」
そういってラジエルはその剣を構える。超える? 世界の理を? それがあの剣? けど私はあんたと直接やり合う気なんてない。あくせく死闘をするのは部下の役目でしょ。向こうがやる気満々なのに遠慮するほど私はお人よしじゃないよ。それに先に手を出してきたのは向こうだし、話し合い何て雰囲気じゃないでしょ……もう。
「殲滅しなさい」
「狙いはラーゼだ! 奴を叩く!!」
私たちの言葉が三度の開戦の合図となった。




