Δ128
キューブの上の方から激しい戦闘音が聞こえる。一体どうなってるのか……無敵の筈のマナ生命体を置いてきた筈だけど、不安が拭いきれない。時間稼ぎだけならマナ生命体は最適解な筈。普通なら……そうなんだけどね。
だって彼らには死の概念がないんだから。敵を倒す――なんて事はある程度強さの上限を超えた相手には厳しいが、減らない数を武器に敵を足止めするには最適だった。でもどうやらあのアンティカはどこか不気味だ。
いや、それを言うならオウラムが出してきたあの紫色したアンティカだって異常だった。あれはなんか勝手に落ちたが……オウラムはあんなにアンティカを持ってたのだろうか? 私が確認しただけでも三機……それはこちらと同じだけの数だ。
しかも仕上がりはどう見てもこちらよりも上……にわかには信じられない。だってこの種は驚く程に頑丈で強い。自分達の強さに自信がある種がおおい。
自分達を弱いと認めてるのなんて人種位だ。その人種が使ってる兵器に手を出す? いや、よしんば手を出したとしよう。アンティカによって潰された種もそこそこ居る訳で、そんな種の生き残りがオウラムに参加してたら、そんな提案をしてもおかしくはない。
おかしくはない……おかしくはけどさ……奴らどこでアンティカを見つけたの? しかもあの装備は何? アンティカは人種の技術の結晶だ。外部装甲はね。フレームはもうどうしようもない謎技術だ。切られたとしても時間が経てばフレームは戻ったりする。自己再生機能がついてるみたい。
フレームを見つける事は……まあ無くはないかなって思う。人種の領域で偶々三機見つかっただけで、他にないなんて事は限らなかったわけだしね。でもフレームはどうにかなったとして、あのフレームはどういうこと? こっちとは違って最初からあの状態だった?
(でも紫のアンティカは装甲なくなって落ちてたような?)
そうなんだよね。あの二機と最初に出てきた紫の奴は関係ない?
(でもでも、オウラムと一緒に居たのは事実だよね。最初の奴はオウラム軍と共に戦ってたし……今度のはラジエルと共にいる。これでオウラムと関係ないと思うほうが無理じゃない?)
よくわからない。よくわからないが……あのラジエルは気に入らないってのは確定だ。まあ元からラジエルは嫌いだったが。とりあえずここはアナハに任せよう。なんか陣が違うからか、いつもと全く違う規模の魔法使ってるし。これなら多分大丈夫でしょう。
アナハの陣は周囲のマナを使って術者の魔力不足を補えるようだ。それでも周囲のマナが薄いと発動とかしなさそうだけど、今は私がマナ生命体の維持にある程度マナを濃くしてるからね。マナが足りないなんて事はないだろう。
それでもキララの様に一瞬で……なんてことはないみたいだけど、これならきっとうさぎっ子は大丈夫だ。私は自身の籠に戻り、通信出来る相手を探す。困った事に通信装置にもなってたピアスが大抵壊れちゃったみたいで大半とは連絡とれない。
それこそ籠の中にいる奴らか、それか亜子くらいだ。とりあえず亜子だね。相手はアンティカだし、戦力を抱えてキューブの上に行ってもらおう。そう思って通信してると、二つの足音が聞こえた。
水の上だし足音というのもおかしいが、ぴちょんぴちょんという音が重なって聞こえる。前を向くとシシ達がマイクを構えて警戒してる。いやいや、マイクでどうしようってのよ。まあマイクは見せ掛けて魔法の用意をしてるんだろうけどさ……さすがにあの二人にシシ達に与えた程度の力では役不足だ。
水の上を歩いてくるのはロリッ子とそして体から炎を滾らせてる美女だった。




