#51
「負けた……」
これが敗北の味か。そう思いながら私は自身のベッドで天蓋を見上げてる。あれから数時間はこうしてる。だってショックだったんだ。まさかの完全敗北。あのイケメンにうさぎっ子が取られた。私は完全なピエロだったよ。あんなどこにでも居るようなイケメン……ではなくて、かなり完璧なイケメンだったが、私が負ける理由はない筈。
だって私の方が可愛いもん。可愛いんだもん。でもうさぎっ子はイケメンが良いらしい。女の子だもんね。しょうがない……
「うぅぅぅぅ」
ボスボスと枕を叩く。しょうがない? 私ほどの美少女がしょうがないとあんなイケメンに敗北して帰ってきたのが許せない! ずっとボーっとしてたけど、段々と自分が許せなくなってきた。けどあのうさぎっ子の言葉を思い出すと、心が痛い。うつ伏せになってベッドに沈む。今日はもうやる気しないな。取り敢えず明日から本気だそう。
本気出してあのイケメンを排除する術を考えよう。
「帰りましたよー」
聞きたくもない声が聞こえてくる。そんな事言ったって私が出迎えるはずもないとわかってるでしょうに毎回毎回あの蛇は懲りもせずによく言うよ。そんな事を思ってると私の部屋をノックする音が聞こえる。そこら辺は紳士である。けど返事しなくても開けるんだけどね。それならもうノックしなくてもいいんだけど。
「寝てるんですか? あの娘の所に行ったのでしょう? どうでしたか?」
嫌な事をいう蛇に私は枕の一つを投げつける。けど蛇は避けることなくそれを掴んだ。
「どうしたんですか?」
そう言って人のベッドに腰掛ける蛇。重みでベッドがギシッとうなる。まあそれだけならいいんだけど……伸ばして来た手で、私の髪を梳いて感触を堪能したら、持ち上げてスンスンしてる。そして大きく息を吐く。
「おい、何やってる」
「いえ、まずは補充をしないと」
何を補充してるのかはしらないけど、蛇が私に抱きついて来るのも大体これが理由だし、やるとは思ってたけどね。この蛇が私を我慢出来るはずがない。
「それで何が有ったんですか?」
スンスンしながら言われてもね。こんな奴に相談するのなんかやだな。
「ほらほら言わないとお尻も嗅ぎますよ」
「そんな事したら蹴る」
「ご褒美です」
駄目だこいつ。早くなんとかしないと。てか既にお尻触ってるし。うつ伏せなのが行けなかったか。いつもは仰向けだからお尻はあんまり無かったんだけどね。こんなモロに揉まれるとなんか恥ずかしい。嗅がれるよりは良いか? とも思うけど、私が臭いわけないし、嗅がれたほうがましではなかろうか? でもね……実際匂いをクンクンされるのって思ってたよりも結構恥ずいからね。
近くまできて思いっきり息をするんだよ。空気の動きとかわかるから。まあもう結構慣れたけど。でもやっぱりお尻はまだ恥ずかしいかも。だってお尻だよ。大切な部分に近すぎるよ。
絶対に危ない気がする。
「更に足も行きますよ」
完全に人のベッドに乗ってきて私をまたぐ蛇。でも身体は足の方へ向いてて、私の足の裏へとその舌を這わしてくる。この変態。
「もう行ってるじゃん」
「我慢なんて出来ません。このまま全身に行く前に吐くことです」
はいた所で全身を舐め回す癖によく言う。
「今日、いけすかないイケメンに会ったの」
「まさか惚れ――」
「んな訳あるわけ無いでしょ。逆ならともかく」
「――確かに」
納得した蛇は今度は逆の足を舐め始めた。
「そのイケメンがうさぎっ子を私から取ったのよ! 二人して甘い空間作っちゃってさ! 私なんて蚊帳の外だよ!」
「なるほど、確かにラーゼはそういう機微にはうとそうですもんね。経験もなさそうですし」
「うっさい! いつまでも独り身なアンタに言われたくないわよ」
そうとういい年してるそうじゃない。それなのに奥さんの一人も……いや、愛人の一人も居ないとか大丈夫なのこいつ? 私のこと言えないから。
「私はだからこそこうやって貴女を自分のものにできてるんですよ。それで今までの人生帳消しです」
そう言って足の指の隙間にまで舌を伸ばす蛇。私の全部、本当にシャブリ尽くす気だよこいつ。一つ一つの指を口に含んではレロレロしてる。こんな奴に話してると虚しくなってくるな。
「はあ……やっばりアンタに言っても意味ないや。それよりドレスは?」
私は気になってた事を聞いた。正直今の気分では行きたくないけどさ……これを足がかりにライザップ崩しをしたいわけで……けど完璧に卿が削がれたのは否めない。だからドレスでも見て、少しはテンション上がれば……と思ったわけだよ。
「勿論ありますよ」
そう言って舐めるのを止めた蛇が、部屋の外へと消えていった。そして戻ってくると漆黒の箱を持って現れた。なんか結構デカイ箱だ。子供用のドレスなんて小さかろうとか思ってたけど、そんな事はないみたい。でもあんまりゴテゴテしたのは私的に好みじゃないみたいな? まあ見て決めるけどね。
「必ずや貴女も気に入りますよ」
「そんな御託良いからさっさと開けてよ」
「では」
そう言ってベッドの近くで箱を置いた蛇はその箱を仰々しくあける。中から出てきたのはまたも黒い布地。折りたたまれてるからこの状態じゃ判断できない。蛇は優しく服を持つと箱から持ち上げる。それでようやく全体像が見渡せる。まあ……一言でいうと黒い。でも喪服とかの黒さじゃない。もっとエレガントな感じの黒だ。なんか所々透けてる様にみえるしね。
それに金の刺繍が入ってて良いアクセントになってる。フリフリも過多ではなく、部分部分に適度にある。全体的にはキュッとしまったドレスだけど、ふんわりと広がったスカートとか女の子っぽさがある感じ。でも全体的には大人って感じ。
「どうですか?」
「まあ……良いんじゃない?」
こいつの見立てを気に入ったとは言いたくない。けど蛇の奴はニヤニヤして満足気な様子。ばればれか。
「けど、結構ぴっちりしてるけど、サイズとか大丈夫なの? 採寸とかした覚えないんだけど?」
「私がいつも無駄に抱きついてるとでも? 貴女の身体は貴女以上に把握してますよ」
うわキモ! 私は思わず、自身の体をバッと腕で抱きしめる。地球なら迷わず警察に駆け込む所だが、ここではこいつが警察……しかもトップみたいものだ。どうしようもない。けどここで問題発覚。
「それって一人で着替えれる物なの?」
ドレスって着たこと無いからわかんない。けどイメージ的に一人で着るイメージ無いんだよね。
「私が居るじゃないですか? 裸なんてよく見てますしね」
「なんかやだ」
確かに裸はよく見せてるけど、それとこれとは話が別っていうか? てかそもそもドレス着るのをうさぎっ子に手伝って貰おうと思ってたんだ。あのイケメンのせいで色々と狂った。憎らしい。
「いやいや、そう言わずに。お着替えしましょう」
なんか鼻息荒いんですけどこの蛇。絶対やばい。私の危険を知らせる警報が頭で鳴ってる。でもこの蛇はなかなか引かないからな……どう言うべきか。
「えっと……あれよあれ。私がドレスを見せる初めての男になりたくないの? 着替えを手伝うとか従者ポジだけどいいの?」
「ふむ……確かに完璧に仕立てられた貴女を誰よりも早く私が独占する。それはとても美味しそうだ」
そういって先で二つに別れた舌でペロッとする蛇。まあ何とか説得は出来たか。けど着替えはどうするかの問題がまだ……
「直ぐに手配させましょう。勿論一流の者達を」
そう言って何処かに連絡しだす蛇。丸く透明な石。一流か……確かに一流はいいよ。素晴らしい。けど、うさぎっ子と他愛もない話もしたかった。そんな事を考えてるとまた気持ちが落ちてきた。
なんやかんやあったけど、私は着替えてパーティー会場にきた。流石は一流……と言いたい所だけど、服の仕立てだけで後はほぼ私は素だ。まあ髪はドレスに合わせて長い髪をアップにして、サイドポニーにしてアクセントの髪飾りを一つつけて……としてるけど、それ以外はまんま素である。絶世の美女である私にはメイクという魔法は必要なかった。
なぜなら私自身が魔法というか奇跡だからである。けどテンションは上がらない。ダルいし、他の女どもの匂いがきついのも私のテンションを下げる要因になってるね。当初の予定では愛想を振りまいて行こと思ってたんだけど、そんな事出来ずに、ただ蛇の後ろで黙ってた。けど、それでも私には注目が集まってる。
(美少女ってまじ得だわ〰)
そんな事を思ってた。