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50/2414

#50

 私の名前は『セルラン・バルクンド』この獣人の国『ライザップ』の宰相である。この国に忠誠を誓ってはや数十年。数々の困難はあったが、王の力になり、この国は獣人の国の中でも最大国家と言われるまでになった。誇りと力……それを確かに持った強大な国。その自負がある。だが……今、この国に未曾有の危機が迫ってるのを私は感じてる。

 異変を感じたのは数ヶ月前。そうアレはアンサンブルバルン殿がアドパンから帰ってきた頃からだった様に思う。あの方はこの国の槍であり盾。英雄と語られる存在。その心はこの国の為にあると言って間違いは無かった。そう……思ってたのだ。それに疑問を挟む者などいない。それだけの人物だった。だが私は異変を感じてた。


 アドパンから帰ってから、あの方は明らかに機嫌が良かった。珍しいことだが、それは喜ばしいこと……最初はそう思ったものだ。なにせあの方はこの国の為に身を粉にして働くお人だ。心安らぐ何かがあったのなら、それに越したことはない……そう思ってたのだ。あの方は伴侶も子もいない。その身の全ては国の為……だからこそ心配でもあったのだ。

 報告されたのは、一人の奴隷と、一人の孤児の保護。私はその孤児が彼の心を安らげる存在なのかと思った。子供では有ったが、美しい子だ。ああいうのが趣味だとは思わなかったが、恋などいつ堕ちるかわからないものだろう。だが早々に彼は保護した子を奉公に出した。信頼できる方へとだ。私の読みは外れたか? と思われたが、アンサンブルバルン殿はどんどんと変わられてる様に思えた。

 

 それはもう私だけの目にわかる変化ではなく。誰しもにわかるほどの変化へと変わってた。誰よりも遅く仕事を来なしてた姿はなくなり、誰よりも早く自宅へと彼は毎日急ぐ。そして何やら少女が好きそうな服屋や、甘い物をよく買い漁ってた。それは前ではあり得ない変化。そんな彼を影で揶揄するものも出てくる始末。しかもこの国の槍であり盾であるアンサンブルバルン殿の変わりようで、この国には緊張感と言うものが無くなった気がする。

 あの方の背中に着いてきてた者は多いのだ。

 

 そんな折、私はその原因と相対する事になる。それはある大貴族の息子のお披露目パーティーでの事。アンサンブルバルン殿はその者を連れてきた。儚げで憂いを帯びた表情でもその輝きが落ちるどころか、妙な色気になって周囲を魅了してた少女。色気……などとは縁のない年端もいかない少女だが、かの者は次元が違った。写真で見た時は確かに美しい人種の娘だとは思った。

 だが所詮は人種。アンサンブルバルン殿が人種に靡くなどとは思いもしなかった。だが実物を見れば納得せざる得ない。それはもう種という枠に収まりきらない美貌。写真ではこの輝きは撮れなかったようだ。その薄紅色の髪と真っ白な肌に黒と金で出来た絶妙なドレスが年端もいかない少女に似合ってるんだ。

 

 あんなドレスは大人でも着こなすのは難しいだろう。だがあの少女には問題ない。ただドレスだけ……普通は宝石をジャラジャラと付ける者が大半だが、あの少女にはそんな物は必要ない。その素の輝きがどれだけの宝石よりも眩しいのだから。気づくと、私は家に居た。他の者もそうだったらしい。あの少女は幻想だったのかと、思ったが、これから何回か会うことになった。

 

 そしてその度に違和感が強まってく。既に枯れたと思ってた自分が、あの少女に会う度に胸がときめく。あれはアンサンブルバルン殿の所有物……そう頭ではわかってるのに、あの娘に会いたいという乾きと、会えるという潤いがどんどんと強くなっていってしまう。おかしくなる。その自覚がある。もう既に取り返しのつかない者も出てきている。

 この欲求は生命の根源的なものなのか、どんな術でもなくすことは出来ない。あの娘に出会ったものは、その美に飲まれる。

 

 だから書き記そう。私が私でなくなった時の為に。願わくば……この国の未来をたくせる者があの魔女を滅してくれる事を願う。

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