Δ72
(なぜ、どうして俺がセーファと戦ってる?)
だって俺はここにいる。それなのに……俺が俺を見てるんだから、やっぱりあれは俺だろう。俺が俺を見間違えるはずがない。いやなんかややこしいな。
(どうして……なにが)
そこまで言って意識が途絶える前の記憶がよみがえってきた。確かよくわからない奴に、体からマナを分離させられたんだ。って事は、今、自分の体を操ってるのはあの時の奴。
(俺の……いや、冷静になれ。激情は心の中だけで燃やして、思考はクリアに。そう教わったじゃないか。僕なら出来る。訳が分からなくても、落ち着くことが大切だ)
僕は深呼吸する。するとどこからか、プシューという音がした。
(まずは現状の確認だ。声は……出せない。自分の体を確認してみよう。確か奴は僕に何か別の体をあてがった筈だ)
餞別とか言ってた。だから実際僕はまだここに居る。あのまま、マナとして放り出されてたら、きっと世界樹へと帰ったはずだからな。ならば今の自分には別の体があるはずだ。だからそれを確かめる為に視線を下に向けて腕を持ってくる。
(なんだこれは……)
その腕は機械だった。いや、内部は板って生々しいが、外装は間違いなく機械だ。足とか見ても同じだ。
(これは……アンティカなのか?)
どうやら僕は鋼鉄の人形の中に魂を移し替えられたようだ。
(こんな事が……)
まさか出来るなんて……けど、実際自分自身がそうなってしまってる。受け入れるしかない。脳とかなくても何故に考える事が出来るのかとかよくわからないが、今はありがたい。考える事が出来るのなら、希望はある。何せ体はそこにあるんだ。
(そうだ、あいつを僕の体から追い出せれば……きっと元の体に戻れる!)
都合がいい考えなのかもしれない。だが、それに賭けるしかない。セーファは基本僕よりも強い。完全に敵とみなされれば、体ごと灰にされかねない。その前に介入しないと……
(うご……け!)
そう意思を込めると、ギギギギと耳障りな音を立ててわずかばかり腰が浮く。けど直ぐにズドンと再び地面に沈んだ。腕はまだ楽だが、体全体を動かすとなると、思うようにいかない。今までは意識せずとも、勝手に出来てた事が上手くできないもどかしさ。腕だって腕を上げる下げるという単純なの、そこまで難しくもないが、指を動かすとなると途端にギギギとなる。自分の命令が上手く先端まで伝わってないようなもどかしさ。けどそれはおかしい。だっで今なお、空を飛んでるアンティカはとても滑らかに動いてる。
こんなぎこちない動きをしてる機体はない。落ちた衝撃でどこか壊れたのかもしれない。そもそも装甲だって歪だしな。フレームが見えてる部分も普通にある。まあそれは今なお戦闘してるアンティカも同じだが……やつらの装甲を奪えればもう少しマシになれるだろうか? 部品とか交換できるかも。
そう思って意識を内部へと集中すると、エラーが出てる箇所が情報として、外の景色に重なる様に表示された。手足の関節もそうだが、どうやらいくつかの神経? みたいなのがイカれてるのが原因のようだ。
(どうにかならないのか?)
そう思うと、検索中とういう表示が……そして『互換性のあるパーツを発見』と画面に矢印がでる。
(この矢印のほうへ向かえばいいのか?)
僕は地面をこすって体を前へと進める。なるべく早く、でも慎重に……けど、目的の物が見えた時、それは起こった。
「あの敵、まだ動いてるぞ!」
「何をやってくるかわからん。破壊しろ!!」
その声には聞き覚えがある。当然だ。だって今、アンティカと戦ってるのは僕が連れてきた兵士達だ。そんな兵士の魔法がこちらに向けられる。
(やめてくれ!! 僕だ!!)
そんな思いが届く事はなかった。僕の視界はいっぱいの嵐にかき乱され、耳には不快な音が響き渡る。




