Δ40
国軍の奴らはなかなかに無茶な突貫を仕掛けてる。まああの蜘蛛はそこまで戦闘タイプではないのか、そもそもがあんまり攻撃したりしないからまだいいけど、そうじゃなかったら流石に無謀と言わざる得ない行動だと思う。私は基本戦場に出たりなんかしないから、そこらへん詳しくなんかないんだけど……無茶が過ぎる気がするよ。下手に支援魔法を掛けたせいだろうか? ラーゼ、あいつらの事そこまで好きくないみたいだったし、余計なお世話?
けど、目の前で死なれてもね。私は回復させる力があるし、見殺しになんて出来ない訳だ。けどそれならそもそも大怪我させるのも忍びない訳で……だから魔法を使ったんだよね。見てられないって感があった。
「彼らも無茶をしますね。どうやら狙いは口みたいの様ですが……」
ティアラ様が冷静にそういうよ。彼女もなかなかに無謀な事をしてると思ってるのかもしれない。けど彼ら的にはもうそれしか打つ手がないってのはあるよね。さっきから見てたけど、どうやら剣でも銃でも攻撃通らないみたいだしあれしか選択できないってのも理解は出来るけどね。国軍の奴らは決死の覚悟で蜘蛛に肉薄する。その時丁度後ろから銃を乱発してるのが効いたのか、蜘蛛が大きく口を開いた。一気に蜘蛛の中へと三人位の兵士がその剣を突っ込んだ。
「「「うおおおおおおお!!」」」
三本の光が蜘蛛の体を突き破って出てきた。国軍の奴らはそれを見て活気づく。けど……
「まだ……蜘蛛のマナは散って……ない」
そういったのはアナハだ。アナハは明確にその目でマナを見る事ができる。それが魔眼。アナハがそういうのなら、あの蜘蛛はまだ死んでない。そもそもまだ目赤いしね。気づいてる? ――よね?
「まだだ! 畳みかけろ!!」
隊長みたいな人がさらなる支持を下す。確かにもう一度同じようにすれば……けどいちど口から引き抜いた剣はその輝きを失ってた。どうやら魔力を使い果たしたみたいだ。あれではもう一度さっきのは撃てないだろう。幸いに人数はいるし、今度は別の奴に交代でもすれば……とか思ってたが、どうやらそれはしないらしい。遠いから良く見えないけど、何か入れ替えた? すると剣が赤い光を取り戻す。
「今、何したか見えたアナハ?」
ここは魔眼持ちのアナハに聞くのが一番だろう。魔眼は視力もいいみたいなんだよね。視力どうこうの距離ではない気もするけど、幸いアナハには見えてたみたいだ。
「剣の中……から何か排出したみたい。そして新しい……何かを入れた……ようにみえた」
「魔力を予め詰めた何か……かな?」
剣が再び魔力を帯びた事から考えて多分そうではないかと考察出来る。けど蜘蛛も黙ってはいない。さっきのダメージでぎこちないけど、体を揺らして周りの奴らを振り払おうとする。更に口にいる奴らは食いちぎろうとその鋭利な牙を振り下ろす。でもどうやら軍の奴らも引く気はないみたい。もう一度腕を口内へと突っ込んで再び光が三つ突き抜ける。
「当たった」
ボソッとアナハがそんな事を言った。すると今度こそ、蜘蛛はその活動を停止した。けど彼らには休む暇はない。だって蜘蛛はもう一体いるのだから。とか思ってるとラーゼを追っていったファイラルの兵が最後の一匹の蜘蛛を蹂躙した。多分口のからなら有効な攻撃が出来ると既にわかってたんだろう。案外あっけなかったよ。そしてそれでようやくアンティカの操作が亜子に戻ったみたいだった。めでたしめでたし……なのかな? いやまだはやいかな?
だってまだここでの戦いは始まったばかりだ。




