Δ33
「皆、今すぐにそいつから離れて!!」
私の声は戦場の皆に届いた筈だけど、少し遅かったかもしれない。私の目には見える。みんなの体に絡まった糸が。蜘蛛の糸は巣みたいなのを作って受け身的な物だと思ってから、全然攻撃しないと思ってたけど、どうやらそうではなかったようだ。見えなかっただけで奴らは攻撃してた。マナを見るように集中するとあのデカい蜘蛛の奴はとても精密に魔法を行使してるのが見える。その魔法はこの廃墟の上空に展開してて、そこから無数の糸が降ってる。
(みんな自覚がない……けど――)
地上で踏ん反りかえってる私達よりも動き回ってる兵の皆には沢山の糸が絡まってる。それは私の目から見るととても多く、既に白くなる程に体を覆ってる者達もいる。けど彼らに体の淀みはないんだ。どうやらあの糸は動きを疎外しないみたい。けど既にかなり巻かれてる人たちもいるわけで……いまは疎外してなくても、あれが無意味な物だとは思えない。アンティカに巻かれてる状態ではなかなかに綺麗だ。
「気のせいかな? 見られてる?」
「行けー! そこだー!!」
隣の奴がうるさい。学校の奴らの前ではお淑やかにしてるようだけど、そもそも学なんかなかったような奴だしね。精一杯賢そうに振舞うキララはおかしいからいいけど、こっちが素だよ。まあ巣を晒してるキララよりもこの変な感覚が問題。なんかヤな感じがする。私の冴えわたる第六感が危機を訴えてる。けど下手に動くのもね。でもとりあえず建物の中に逃げた方がいいかも? 建物なら、この降り注ぐ糸から逃れられる。
「グルダフ、私達は建物の中に」
「はっ!」
そういって私達の乗ってる籠を先導してくるグルダフ達。けど彼らは建物の中に入れないようだ。
「なんだこれ?」
「はいれ……ない!」
必死に押し通ろうとしてるが、望み薄みたい。私の目には見える。建物の入り口を塞ぐ糸が。どうやら逃がす気はないみたい。
「ラーゼ、離れたのいいかけど、このままじゃ火力が足りないわ。散布率も一向に上がらないし……ってあれ?」
まずい!
「亜子、散布をやめて、糸が内部にまで入ってる!」
「糸? そんな物見えな――何!?」
上を見るとアンティカの動きがなんかおかしい。なにやらギギギと聞こえそうなぎこちなさ。赤いマナを散布する為の機関から糸がアンティカを侵食してる。あの糸、色々とやばい。私はあの糸に触らないようにした方がいいかも。今は籠の中に居るからいいけど、なんか相性が悪そうなんだよね。
「どうしたの? ゼロ!! ゼロ!!」
そんな必死な声が通信越しに聞こえる。アンティカに何か異常が起こってるみたい。てかそもそもアンティカの元となるフレームと核は遺跡から発掘された古代の代物。それには手が加えられない程の謎の技術ってネジマキ博士が言ってた。そしてここも古代遺跡……アンティカを造ったのはもしかしたら……そうおもってると、アンティカの目が怪しく光る。その目はこっちを向いている。そしてアンティカがこちらに向かってくる。
「ゼロー! 止まってえええええ!!」
亜子の必死の叫びがどこか遠くから聞こえるようなそんな気してた。




