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「なんだ……それは……」
それは黒鎧の言葉だ。なんだと言われても困ってしまう。だって歌ってるだけだし。もしかして彼の居た時代には歌なんてなかったのだろうか? けど歌とか相当古くからあり得てもおかしくない物だと思うけどね。もしかしてアスタナがそういう事に興味ないとか? うーん、けど流石にこの時代なら歌ぐらい許容してるよね? 見た目的にそこまで変わらなかったし四六時中武器の事ばっかりって訳でもなさそうだったけど。
「純なマナを……呼び込んでるのか?」
ん? なんか変な反応してるね。マナを呼び込んでる? どういうことだろうか? さっきの言葉も歌に対してじゃなくてそっちだったの? けど私達には応える事なんて出来ないよ。実は結構こっちもびっくりだし。でもただ歌うのはやめることは出来ないのは確実だ。だってこうやってると、五人がそろってるみたいに感じる。いや、きっと私達は揃ってる。
私とコランは結局一曲歌い切った。最後らへんで私達にはラーゼ様とミラとフィリー姉さまの声が聞こえてた。いつの間にか私の頭にはここに刺さってるアスタナ達の声は聞こえなくなってたよ。純なマナ……それがどんな色をしてるのか、私は知らないけど、きっとこんな白いんだろう。歌い終わった私達の傍には三人と覚える白い人型があった。それはラーゼ様達だと確信できる。私達は揃ってる。この場所に。それならもう……恐怖なんてない。
「面白い……だが、それでどうする?」
「焦らないでよ……本番はここら……」
だってようやく五人そろったんだ。ライブ……そうここからがほんとうのプリムローズのライブだ。私はコランの手をギュッと握って言ってやる。
「もう一曲いっくよおおおお!」
「ぬぁ?」
思わず黒鎧も変な声出してる。まさかここでもう一回歌うとは思ってなかったんだろう。けど、私達的には一曲で満足なんて出来ない。五人そろったのなら、ここからが本番だ。だから一曲で終わるなんて選択肢の方がない。
「今度は……ただで歌わせたりせんぞ!」
奴の剣が脈打ってる。それはまるで血を求めてるかのよう。とか私は思ったけど、なんかコランは違ったみたい。
「期待されてるねシシちゃん」
どうやらコランにはあの脈打ちはアンコールに見えるみたいだ。そう考えると不気味じゃないね。とりあえず奴が何をしようと私達が示すの歌しかない。ああ、曲が流れてくる。体が再び自然に動く。五人でいつもの様に足並みをそろえて踊りだす。黒鎧が突っ込んできてる……けど、そんなのおかまいなしだ。かさなる音が響くたびにこの荒野に緑が戻る。溢れるマナが色んなものを生み出してく。そしてそれを浴びたアスタナ達は、光となって消えていく。魂が世界樹へと帰ってるのかもしれない。
溢れるマナの本流の前に黒鎧は近づくことさえ出来ない。
「戦わずして……この空間を破る……か!? なんだ……それは?」
黒鎧は自身のマナを周囲に張ってなんとか耐えてる。けど、それも時間の問題だろう。あふれ出すマナはこの場所を埋め尽くしてしまったのだから。思い出させてくれたよ……アスタナ達が天に帰るさい、私達に歓声をくれた。そうだよ私達はアイドル。示せるものはこれしかない。
「私達はアイドル。剣じゃなく、歌で世界を救う者よ!!」
「歌で……世界を……」
実際世界を救うなんて思ってなかったけど、決めなきゃなと思って大言壮語を言ってしまった。けど、なんかしっくり来たからいいかな。すると黒鎧は大きく笑い出す。そして次第にその鎧に亀裂が走る。
「そうか……そこまで時代は変わったか……なら、われらの有りようも変わらないといけないのかもしれん。よかろう、貴様たちの勝ちだ」
そう言って黒鎧は砕け散る。私達はいつの間にか、剣が一本だけ刺さってた部屋でラーゼ様達の傍にいた。そして私とコランのなんかちょっと禍々しいマイクが握られてた。




