θ156
「なんの……つもりだ……」
黒鎧が物凄い圧力を出す。頭に響く無数の悲鳴は、この地に刺さってるアスタナ達の叫び。もしかしたら殺されたときの事でも思い出したのかもしれない。そう思う程にその叫びには恐れと狂騒が乗ってた。
「逃げて……コラン……」
そもそも出てきてほしくなかった。折角気配消しであいつの意識は完全に私だけに向いてたのに……さすがにきっと次は見逃してくれないよ。私は叫びでおかしくなりそうな頭を抑えつつ、コランを突き離そうとする。けど……コランは離れない。
「いや! それにこの場所じゃあ、どこにも逃げられないよ」
それは……まあたしかにそうだ。この空間に逃げ場何てない。けどもしかしたら、私が倒された時にコランの存在を忘れててくれたら、コランだけでも元の場所に帰れたかもしれない。それでもアスタナ達の拠点なんだけど……ここからでれたらきっとラーゼ様が何とかしてくれる。だから――って思ってたのに。
「そうだ……貴様たちに逃げ場などない。だから、示せ。出来ぬなら、貴様達もここの一本に加われ」
そういった黒鎧がこっちに駆けてくる。私はコランと共に飛ぶためのショートポイントの場所を探す。こうなったらまた繰り返しだ。またここの武器達を奴に落とす。そう思ったんだけど、コランは私から離れて今度はコランが私の前で両手を広げて仁王立ちする。あのバカ!! 振り下ろされる黒鎧の剣。けどそれはコランの寸前で止まってる。
「なんの……つもりだ?」
それはさっき聞いたセリフだ。聞いて私達は何も答えなかった。でも今度は私もそれを言いたい。本当にいきなり何してるのコラン。死ぬところ……死ぬところだったよ!! そもそも何で黒鎧が攻撃を止めたのかも謎だよ。
「示すよ……私達は!!」
「ほう……」
コランは自分から見たら山の様にデカい黒鎧に一歩も引かずにそう言い切る。示す……その答えがコランには分かったのだろうか? コランの目はまっすぐに黒鎧を貫いてる。その目に確固たる自信を感じたのか、黒鎧は一度距離を取った。
「なら、それを示して見せよ」
再び大きく腕を広げる黒鎧。あいつは自身が倒されるの願ってるのだろうか? よく二度もあれやるね。そう思ってると、コランは私が落とした剣を取る。
「コラン……」
やっぱり胸を狙うしか……とか思ってるとコランは柄の所を両手で持って口元に近づける。そして……そう、歌いだした。剣の柄をマイクに見立てて、そしてこの戦場でその声に旋律をのせる。
「何を……やっている?」
そうなるよね。私もちょっと呆けてた。けど、コランはそんな声を聴いてもやめようとはしない。それどころか、私へ片手を向けてくる。それは一緒に歌おうって事? それに意味があるの? 勿論歌えるけど……だってこれは私たちプリムローズの歌だ。歌えない訳がない。けどこの状況で……でもコランは楽しそうだった。こんな場所で、こんな状況でも……だ。そんなコランに私は絆された。私はその手を取って歌いだす。二人の声が重なってこの場所に響く。
いつの間にか、私は頭に響く声が聞こえなくなって、代わりに旋律が流れてる。黒鎧はいつだって私達を殺せる……そんな状況なのに、歌うと恐怖なんてどこか行ったかのようだった。




