#41
「なんか……固くて冷えてて温かい……気持ち悪い感じがする」
「相変わらず酷いですね全く」
頭の上から聞き慣れた声が聴こえる。本当は聞き慣れたくなかったんだけど、しょうがない。今の私はこの蛇、アンサンブルバルンの所有物だからだ。しかも生体兵器扱い。まあだからって他の生体兵器と違って私は使い捨てではない。戦場に転移魔法で放り込まれて、そこで力を開放して敵を殲滅。その後に勝手に回収される仕組みである。
しかも階級まで与えられてる。まあだけど、階級なんてわかんない。アンサンブルバルンがなんか勝手にやっただけだし。てかこの蛇……そろそろ私から離れろ。いつもこうだよ。力を使った後は私は意識を失う。そして目覚めるとこの蛇がベッドで私を抱きしめてる。爬虫類の感触ってなんかイヤなんだよね。だからマジでやめてほしい。
しかも私の格好……かなり薄い生地のネグリジェなんだよね。ハッキリいうと色々と隠せてない。しかも起きる度に格好違うし……この蛇の趣味ヤバイ。その内貞操が奪われそう。てか既に? いや、それは大丈夫なはず。触ったり舐めたりはしてくるけど、興奮してるのか? というとそこら辺はよくわからない。まあでも私に執着してるのは間違いないけど。
「なんで毎回毎回抱きついてるのよ」
「それは貴女が心配だからですよ」
心にも無いことを平然という蛇。そして私の頭に顔を埋めてきて思いっきり匂いを嗅ぐ。もうなんかゾクゾクする。
「はあ~、堪りませんよ」
なんか蛇の眼がうっとりしてる。背筋に寒いものが駆け抜ける。この蛇、段々と行動が大胆になってきてる気がする。しかも頻度も……大体私はこの部屋、蛇の自室に居るわけだけど……いつだって私に抱きついて来やがる。逃げようにも身体能力的に向こうが上だから逃れようがない。この蛇、自分が今獣僧兵団のなかでなんて呼ばれてるか知ってるのだろうか?
『生体兵器に落ちた英雄』そんな風に呼ばれてる。まあこの様子だと気にしてないようだし、この姿をみればそれは否定しようがないけどね。
「ひゃん!」
蛇の細くて先端で別れた舌が私の項を這った感触がした。そして項を堪能した舌は更に伸びて顎の下くらいにまで来てる。
「ちょっとあんたね……どれだけ払ってくれる訳?」
「私の所有物にお金を払うというのもおかしな話だと思いませんか? まあそれで大人しくしてれるんですから払いますよ」
なんか完全にそういうお店みたいだけど、言ってみたらお金くれたから貰うことにした。だってお金は大切だからね。お金事態は共通じゃないみたいだけど、換金は出来るみたいだからこの国のお金があっても困ることはないだろう。カードを取り出した蛇は端末にそれをスライドさせた。ピッという音がしたから今度は私のカードをスライドする。
そして何か操作して、指を置くとシャランと言う音がした。
「どうですか?」
「……私は寝る」
「では私は思い切り堪能しましょう」
中々の大金だった。多少の気持ち悪さぐらいは我慢しようじゃないか。蛇は私の了承を得たから私を一度持ち上げて仰向けにさせる。そして覆いかぶさってきて、全身を隈なくスーハースーハーしてる。まあこんな変態は置いといて……さっきの端末をみる。ハッキリいって超高性能な代物だ。あんなの現代にもなかったよ。セキュリティは大丈夫なのかと思ったけど、最後の指置く所で本人確認してるみたい。
しかも指紋じゃないよ。その人のマナを確認してるんだって。どうやらマナはどんな生物にも有って、体内ではそれぞれ変わるらしい。だからそれを読み取って本人を確認してると。
何なんだろうね……この技術力のあべこべさは。服もないような生活してる奴等もいれば、こんなハイテクな生活してるやつもいる。まあでもそれは地球でもそうだったか。原住民とかは電気もない生活してたし……そう考えれば、私が出会った人達の文化レベルが低かっただけかもしれない。そういえば……
「この前、ロボットみたいなのが戦場にいたけどあれは何?」
「ロボットとはなんですか? 貴女は偶に知らない言葉を使いますね」
「デッカイ機械人形みたいなの。黄金と青と赤の。人が居た戦場でね」
「ああ、それは奴等の新兵器のアンティカでしょう。たいそう褒められましたよ。貴女がその一機を破壊してくれましたのでね」
アンティカ……あのロボットはそういうのか。なんかめっちゃ格好良かった。しかも超強かったし。まあ私の防御は抜けなかったけど。でもあの赤いのはまずかった。多分あれ、マナに多少なりとも干渉してた。魔法使いには天敵だろう。私はマナをぶっ放してるだけだからどうにかなったけどね。強力な魔法使いほど、あの赤いアンティカの餌食になりそうだった。
けどあの赤いのを壊したからもうその心配は無いかもだけど。でもあんなのが大量生産されてたらいくらなんでも勝ち目ないと思うが。そんな風に考えて黙ってると、蛇の奴が私の身体を舐め回すのをやめて顔を近づけてた。
「言っときますが、貴女はあの国にも、この国にもやりません。貴女は私の物です」
その目は本気だ。なんだか……狂ってない? こんな奴だった? もしかして私のせい? マジで私には魔性があるのかも。もっと国に忠誠的だったし、なんか受け流しが上手そうな世渡り上手的な蛇だったと思うんだけど……今のこの蛇は私の為なら祖国さえ裏切りそう。どうしてこうなった? 私が絶世の美女だからかな? 仕方ないね。それはだって事実だから。
「じゃあ、しっかり捕まえときなさいよ。私はアンタに執着なんかない」
「絡め取るのは得意ですよ。なにせ蛇ですから」
そう言って私達はベッドの上で薄ら笑いを浮かべあう。




