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θ121

「サイオス!!」


 私はそう叫んでサイオスを刺した奴を睨んで魔法を使おうとした。私なら詠唱とか何やらは全て無視できる。とりあえず早くサイオスを助けないと……そんな思いがあったんだ。このまま死なれちゃ目覚めが悪い。


「だめ……だ……離れ……ろ」


 口から溢れる血で息も絶え絶えなのにサイオスは私に向かってそういった。はっとして私は距離を取ろうとする。黒い刃はサイオスの体がないかの様に滑り出す。実際にはそこにちゃんとサイオスの体はあるのに……だ。まずい刃だと思った。この刃は多分だけど、私を傷つけうる刃だ。


 今言うことでじゃないかもだけど……私は運動神経がよくない。ダンスだって一生懸命練習してなんとかやってる。そんな私がとっさに体を動かすなんて出来る訳なくて……達人とも思えるその相手の刃を避けれるなんて私には思えない。とりあえずここは自分の中のマナを体内で凝縮して身構える。黒い刃はサイオスの体を半分以上切って私に迫る。サイオスの体から抜け出すと、更にその素早さは増した。

 体なんて無いように進んでたと思ったけど、どうやらちゃんと抵抗はあったみたいだ。


(大丈夫。私の防御は世界最強――つっ!?)


 ぬる――とした感触が私の首に触れた。それはサイオスの血の温かさなのか、それとも黒い刃の感触なのかはわからない。けど私にはその刃が私の皮膚を裂き、肉に食い込もうとしてるのがわかった。


「ラーゼ様!! ぐああああああああ!!」

「犬次!!」


 私を後方に押すように犬次が突進してきた。そのおかげで私は間一髪助かった。けど犬次は血を流しながら、その場にうずくまる。その様子を見て、私は自身の首に手を持っていく。ヌルっとした感覚……私の首は確かに傷ついてる。あのままだったら確実に私のこの首と体が分断されてたって事だ。恐怖が体を這いずり回る。


「おい! 大丈夫か!?」

「奇襲です! 皆さん!!」


 犬さんと犬一が私の前にその人物のとの間に入ってる。次は自分達が犬次の様になることは避けられないとわかってる筈なのに、彼らの行動は早かった。犬一の言葉でようやく事態を悟った冒険者達がこちらに駆けてくる。私はとりあえずカードを起動させて彼らを補助する。謎の人物は犬次の傍で突っ立ってた。よく見ると、サイオス奴がそいつの足首を掴んでた。あの状態で……どこにそんな力が……普通ならとっくに死んでてもおかしくない傷の筈だ。


「全員で一気にいくぞ! 隙を見てあの二人を引きはがす!!」


 そう指示を出して真っ先に近づくのは赤線だ。確かにいくら数がいても、仲間が近くで倒れてるとデカい技を使えない。どうやら赤線が切り込んで後に続くやつに救出を頼む算段のようだ。確かに赤線の奴なら打ち合える……そうおもったけどあまかった。一閃だった。血しぶきが吹いたと思ったら赤線は地面に倒れ伏す。けどそれでも冒険者達はとまらない。勇敢にも数で攻める。けど、積み上げられるのは冒険者達の体で……流れ出る血は池の様に広がってくばかりだった。


「やめて! 止まりなさない!!」


 私のそんな声も届かない。積みあがった冒険者達の山に、そいつは悠然と立ちつくしてる。


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