θ117
「よかったの? これで?」
私はゼルと二人きりになった空間でそう問いかける。ここは再び私たちだけの物になった。誰にも侵されることのない場所。約束の大地。
『良かったも何も……これは奴らの選択だ』
選択……ね。まあ選択というか、それしか選べなかったみたいな気がするけど。彼女達は追いつめられていた。だからきっと人種では破格の私に目を付けたんだと思う。それに人種ならどうとでも出来る……なんて算段もあったんだと思う。人を侮ってるというか、見下すみたいな態度だったしね。けどそれは普通だ。この世界の大抵の種は人種を見下してる。まともに魔法も使えない見捨てられた種としてね。
けどその見下しが仇になることは多々ある。現に人種は健在で滅んだ種はシャグリラン以外にも多々あるのだから。
「それでどういう事なの? なんかあいつのやってた事、私の身になった感じがしたんだけど?」
『それはあの者がラーゼを通してここに来たからだな。お前と同調してたらお前にあの者のやってる事がわかったのだ』
「それって危険な事?」
『そうだな、下手をすれば二人の精神が混ざって他の誰かになる……なんて事もある。だからあの術はかなり危険だ』
なるほど、だから彼女の仲間は必死に呪文を唱えててなんかやってたわけか。多分彼らが彼女という存在を保護してたのかな? だって最初はそんな感じなかったからね。混ざり合うような……さ。
「あのさ……ゼル。私は以前のままなの?」
混ざり合う……ときいてちょっと不安になる。だって彼女最後は私の中に入ってきてたけど? 大丈夫なのそれ? 混ざり合っちゃったら以前の状態とか自分ではわからなかったりするんじゃなかろうか? だから私はゼルに聞いた。ゼルは多分、私を間違えないだろうから。
『心配するな、アレにお前に混ざるような力はない。お前という存在が大きすぎるからな。ただ単に、ラーゼがクリスタルウッドに繋がってるから、そのように見えただけだ』
「なるほど……」
どうやら私と彼女では存在の大きさが圧倒的に違うらしい。まあ考えてみたらそれも当然だ。だって私はゼルの力とクリスタルウッドが集める世界のマナを内包してる。一個人と世界くらいの違いだ。だから一個人なんて私に溶け合っても影響なんてないらしい。流石私だ。
「そういえば彼女の体はどうなるのかな? 精神だけ死んだんだよね?」
『肉体はまだ生きてはいるだろうな。だが肉体だけでは、いずれ朽ちるだけだ』
やっぱりそうだよね。だって動かないだろうし……マナを空気中から取り入れるみたいな生物なら、多分大丈夫なんだろうけど、あいつら普通に口あったしね。けど魔光石が体と同化してたし、人種よりは長く持ちそうではある。
「ねえ、ゼル。折角だし色々と聞きたい事があるんだけど?」
『大丈夫なのか? お前の体も大変だと思うぞ』
「え? そうなの?」
うすうすそうなんじゃないのかな? とは思ってた。だって直前まで戦闘中だったしね。じゃあここで呑気に話してる場合じゃないかもしれない。けどゼルと話せる機会なんて次はいつあるかわからない。はっきり言って結構聞きたい事はある。ここへの行き方とかね。だから私は迷うよ。けど体が大変なら一刻も早く戻るべきだよね。ううう~どうしたら?
『そうだな、どうにかしよう。近くお前の所を訪ねよう。だから今は帰れ』
「訪れるってどうやって?」
ゼルの大きな瞳を私は見つめる。だってゼルデカいし……そもぞもゼルが現れる事が大ごとの筈だ。下手したら、それが世界の種族たちへの刺激になって開戦の火蓋を開けるかもしれない。
『心配するな目立つような事はしない』
「まあ、ゼルがそういうなら……じゃあとりあえず今は帰る」
『そうだな、それがいい。せいぜい我を楽しませろ』
「私が楽しんでるだけだけどね」
そういう私を見て、ゼルは笑ったみたいに見えた。実際はわからないけと……そんなやりとりをして、私の精神はゼルから離れてく。景色がながれ、次に気が付くと私は肉体へと戻ってた。




