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「アークア?」
「そっ、よろしくね」
呟いた私の傍には一人の少女がいた。私と同じ背丈の女の子は、この水の都市に相応しそうな水色の髪をしてて、肌も透き通る様に白い。もしかして水の妖精かなにかかな? とか一瞬思った。目元がきついのと、鼻がぺちゃんこなのがちょっと気になるけど、それも愛嬌だよね。そもそもなんかこの子から滲み出るような気品っぽさが、私が下だと思わせる。だって私はただの平民でだ。今はアイドルなんかやってるけど……平民根性が根付いてる。
だから今でも貴族様とかは結構苦手です。だからラーゼ様についていってパーティーとかに行くのも気が引ける。でも憧れはあった。だって女の子なら誰だってキラキラしたいとかそんな事思ったりするものだ。だから今は夢みたい。けど、最初からキラキラしてる人たちと並ぶとやっぱり私は田舎娘で気後れしちゃうのだ。
「貴方がコランちゃんか。ほんと可愛い」
そういう彼女は私の顎を掴んでムリヤリ目を合わせてくる。切れ長の目が私を射抜いてて、震えてくるよ。やめてって言いたい。けど貴族感がありありとある彼女に対しては、私は何もいえないよ。なぜなら私はただの平民だから。貴族に逆らうなんて平民には出来ないんだ。
「やめなさい! コランを虐めないで!!」
そう言って私を開放してくれたのはシシちゃんだ。シシちゃんも貴族なんかじゃない。寧ろ貴族に虐げられた側だってことをなんとなく聞いたけど……貴族に物怖じせずに立ってられるその姿が眩しい。シシちゃんは本当に強い。シシちゃんの強い所、ミラ姉の頑張り屋な所、フィリー姉の女の子らしい所、それは全部私の憧れなのだ。
「シシちゃん」
「大丈夫コラン?」
「あらあら、そんな心配しなくても問題ありません事よ。別に取って食おうなんて思ってませんから。ただ私はコランちゃんと仲良くなりたいだけでしたのに」
そう言ってふふふと笑って私を見る彼女を。その視線にゾクッとするよ。前に立ってくれてるシシちゃんの背に隠れて背中側の服をギュッとする。いつもなら皴になるから怒られるんだけど……いまはそんな事言われない。変わりに後ろ手に手を開いてくれる。だからそこに私は手を置く。するとシシちゃんは力強く握ってくれた。
「仲良くなりたい? それならそれなりの姿勢を見せてもらわないとと思うんだけど?」
「それはすみません。私、平民の方に頭を下げるって事、馴れておりませんの」
そう言って彼女はスカートの両端を持ち上げて礼をした。優雅なその仕草に悪気何て全く感じれない。
「クーシェ、私たちは彼女達の背中を借りる身です。おいたはやめなさい」
そう言ったのは同じ水色の髪をしたミラ姉と同じくらいの年の女の子。彼女は線も細くて顔も整ってて、間違いなく美少女だった。他に女の子は見えない。多分アークアは三人組なんだろう。
「すみませんシェルラ姉さま。私、コランちゃんのファンだったのでつい……いじわるしたくなりましたの。だってほら、コランちゃんはおびえた姿が可愛いでしょ?」
(ええええええ!?)
やばいよこの子! 私の天敵だよ!
「すみません、出来の悪い妹たちが……今日は親交を深めようと思って参上しましたの? よろしければ私たちがこのアクワイヤを案内してあげまずわ」
どうやら彼女達は姉妹らしい。そして最初にミラと握手を交わしたのが長女の人みたい。どうするのか……私的にはこのクーシェ? と呼ばれた子に既に苦手意識があるんだけど……
「えっとその少しお待ちを……」
ミラ姉はそう言ってしばし時間を稼ぐ。そして私たちとマネージャーさん達を交えて相談が始まった。




