θ70
眼下にはすでにたくさんの人たちがいる。どうやら昨日パーティーに居た貴族達もこのライブを見てくみたい。まあせっかくならそうするわよね。同じ場所で二度目となるライブだからか、今回は最初よりもさらに人が多くなってる気がする。きっと周辺の街や村からも人をかき集めてきたんだろう。え? サクラ? いえいえ、親切心です。この船以外のいくつかの船にもダンプを複数台収容してる。
それを使ってここ以外の街や村を回ったんだろう。流石に夕方から徒歩でライブまでにここに間に合うわけない。なのでラーゼ様がダンプを繰り出してて人を集めさせたのだ。あの人派手好きだからね。でも、それだけでもないと思う。ラーゼ様は世界に可愛いを普及させたいって考えてるからね。より多くの人に見て、楽しんでもらいたいってのもあるんだと思う。まあそんな事あの人は言わないけど。
私はチラリとラーゼ様の方を見る。何やら犬達とそれに通信装置で誰かとも話してる感じだけど、私たちにはプリムローズ内の事しか言ってくれない。それは私たちを思っての事だ。わかってる。だって私たちにプリムローズの以外の事を話したとしても何が出来るわけでもないもの。私たちはこれだけやってればいいけど、ラーゼ様は違う。あの方は人種でもかなり特殊な立場にいるし、領が領だけにかかる期待は大きい。
信奉者はいっぱいいる。それこそあの女神教に匹敵するくらいには。数年前にいきなり台頭してきた女神教なる宗派はその崇拝対象の人があの戦い後、かなりの人に恩を売ったらしい。聞いた話によると、奇跡みたいな魔法で癒しを与えるんだとか。なのでここ数年で国も無視出来ない規模になってる。そして我らがファイラル領もここ数年で台頭した領だからね。しかもそれは異常な感じで。私はラーゼ様が何をしたかはしらない。
けど……ファイラルにきて最初に思ったのは驚きだった。創造を絶する驚き。違う世界に迷い込んだかのような景色がそこには広がってて……さいしょはこんな所に自分が馴染めるのかなって思った。でも今はここにいることに違和感を感じる事はない。いや、恥ずかしい気持ちはまたまだ多少はある。でも……それいじょうに快感っていうか? 今はこれを楽しんでる。
「さあ、行くわよ皆」
話を終えて戻ってきたラーゼ様はお腹や足をぎりぎりまで出した衣装に身を包んでる。色違いで私たちも同じような服に身を包んでる訳だけど……やっばりラーゼ様は格というか次元が違う。一歩を踏むたびに揺れる髪や服やスカートが音さえも奏でそうな程に艶やかで……まっすぐに前を見据える瞳は宝石よりも輝いてる。
「はあ」
同じ女でも思わずため息が出る。私たちは配置について音楽がかかるのを静かに待った。そして一緒に浮いてる複数の船から次第に音が鳴りだす。音は音楽になって観衆達が声を上げる。そして私たちも足でリズムをとって視線を交差――そして口を開いたその瞬間だった。私たちの声じゃない歌声が響いたのは。勿論誰もが戸惑う。そして一隻の船が光を発しながら現れた。そしてそこには複数の女の子。
その子達が歌ってた。




