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「ここは?」
「ご無礼をお許しくださいラーゼ様。あの場では邪魔が入りそうでしたので移動させてもらいました」
月明かりの下そういうのはオウセリア・ラジャードと名乗った女性。女性……だよね? 確かにドレスを着てて、所作も完璧なんだけど、なんだか私の美少女好きの本能が違和感を訴えてくるんだよね。
「ねえ、あなた女性?」
なのでストレートに聞いてみた。私はもやもやするのは嫌いなのだ。するとオウセリア・ラジャードはこういった。
「どちらかといえば」
それはとても曖昧な言葉だ。どちらかといえば? じゃあちょっとは男に片足突っ込んでるんだろうか? わからない。どういうことなの? するとオウセリアは少し噴出して私を見てくる。
「そんな事よりも、焦らないんですね?」
「焦る?」
「この状況にですよ」
ああ、確かに――とおもった。きっと私が消えたことで向こうは大慌てだろう。沢山警戒してたハズだけど、やっばりそれでも万全とはいえないよね。ある程度は仕方ない。こうなっちゃったらね。けどそれで私が諦めてるかといえば別段そういうわけでもない。
「確かに焦る場面なのかもしれないけど……うーん、私の事殺すの?」
「殺しませんよ」
またもやストレートに聞くと、向こうもストレートに返してくれた。どうやら殺す気はないようだ。まあこんな人気もない所に連れてきてゆっくりとお話ししてるくらいだからね。私はなんとなく敵意ってやつを感じてなかったのかもしれない。
「じゃあなんでこんな危険な事をやったのかな? 私の部下たちはとっても怖いよ?」
それこそこんな風に喋ってる間にもここを突き止めそうなくらいにはね。それだけ私という存在は彼等には大事だから。
「しってますよ。ずっと貴方を見てたので」
「ずっと?」
「ええ、失礼ながら」
期間はいってくれないのね。けどそれでも私を遠くから観察することも難しいはず。それが出来てたという事は、凄腕? でも人程度ではそれは不可能に近いはず。と、なれば……だ。この目の前のオウセリアは人種では……ない? 蛇が言ってた領に侵入してたかもしれないっていう他種族だろうか?
「ねえ、それで貴女の目的は?」
あえて私は聞かない。まあそこまで深い事を考えて事じゃないよ。ただ何となく、別にいいかなー? ってね。私と敵対しないのなら、種族なんて私的にはどうでもいいことなのだ。この世界の人達にとってはそれはあり得ないことなのかもしれないけどね。
「私たちの目的は、羨望の分配です」
「?」
私は思わず首を傾げるよ。よくわからない。羨望の分配とはこれいかに?
「お気づきかもしれませんが、私は人種ではありません。『セーバレス』という種にございます」
セーバレス? 聞いたことないね。まあそもそも私はこの世界の種を全部把握してる訳じゃないけど。そんなのは私の仕事じゃないから。
「我らの生きる糧は羨望なのです。それを簡単に与えてくれるのが人種なので、我らは人種と対立することはありません。我らはこの国の一つの領で慎ましやかに人種と共に暮らしてました」
驚きである。私が来る以前から、このセーバレスという種族は人種に紛れて暮らしてた……しかも領まで与えられて。って事はオウセリアがなのったラジャートって家名は本物なんだ。きっとその領には普通の人種もいて、こいつが言うことが本当ならいい領主として羨望を集めてて、それでなんとかなってたと。あれ? なんか見えてきたぞ。
「ですが、今はその羨望が他の方へと向いてしまいました。それが何を隠そう貴方達です」
ですよねー。うん、話の流れからそうだろうとおもったよ。
「でも、羨望を分けるってどうするの?」
そこらへんよくわからないじゃん。分けるとかできなくない?
「なので今すぐにこのお遊びをやめていただきたい」
「それは無理」
私はきっぱりという言うよ。穏やかだった風に、何やら厳しい視線が混ざった気がする。けど、これだけはそうやすやすと辞める訳にはいかないだよ。それは絶対だ。なので私は胸を張って、意思をのせてオウセリアを見つめ返す。




