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θ52

「ええと……なんの事でしょうか?」

「いや、プリムローズのリーダーミラちゃんだろ?」


 ミラは何とかごまかそうとするが、サイオスの奴はどうやら確信を持ってるようだ。ほんとうなんであいつ……わかってるの? 魔法も変装も完璧なはずだ。その証拠に私たちは大丈夫だし。まあ私はちらちら見られてるけどね。私の美貌は変装でも魔法でも抑えきることはできないのだ。まあそんな事よりも問題はサイオスだ。ここにいることも……そしてミラの正体を見破ってる事も……見過ごす事は出来ない。


「お前も……そんな格好で一体なにをしてるんだ? 護衛じゃないのか?」

「ごごこ護衛だよ? 勿論仕事中に決まってるじゃん」


 明らかに震えた声を出してる犬さん。仕方ないね。だってサイオスの奴が妙な勘の良さを発揮してる。ここで下手なことを言うと私の正体にまで感づかれるかもしれないしね。犬次は緊張状態だろう。


「冒険者っぽい服装じゃないみたいだが?」

「ぐ……それは……」


 こういうときだけ目敏いサイオスの奴。確かに今の犬次はマネージャーとしてこの場にいるから、冒険者としてはおかしな格好である。冒険者なら武器に防具を身に着けてるのが普通で、更にサイオス的には犬次達は私たちの護衛の一団に交じってきてる――という認識だからね。確かにおかしく見えるのも仕方ない。そもそも状況からおかしいし……けどそれならいつものサイオスらしく変な感性の元、斜め上に走ってくれればいいのに、なにまともになってるの? 厄介この上ないでしょうが。


「今日はオフなのよね!」

「ああ、そうそう。そしたら偶然彼女に会ってさ」

「他の護衛が見当たらないが? プリムローズのメンバーを一人にはしないだろう?」

「「…………」」


 二人が俯いてる。やばいね……これはやばいよ。ほんとうに、なんの間違いか……サイオスがまともな事しか言わないからどんどん犬さんとミラが追いつめられてる。早く……はやくあいつを社会奉仕に連れ戻さないと。ほんとうどうやって抜け出してきたのか。確か特殊なアイテムをはめられて逃走なんてことは出来ないはずだったのに……こいつはこのバカはここにいる。何したのか? サイオスは得体がしれないんだよね。


 調べても怪しい所は別になかった。別になかったけど……それが逆に怪しいとも思える。まあ私は思わないけど、蛇とか私周囲はちょっとそんなことを言ってた気がする。それにあいつの使う力……なんとなくだけど、違和感はあった。感じてた。どこか抑えてるような? まあでも冒険者なら、そんな簡単に手の内の全てを見せるなんてしてないし、そんなものだと思ってたけど……牢屋からの脱出といい今回の件といい……ちょっとね。


 サイオスにはやっばり何かあるような気がする。けどその何か……にわたしはそこまで興味はない。むしろ、気持ち悪いから近づかないでほしいよね。それに変な事情があるのなら巻き込まれたくもないし……なのでやっぱりこいつは強制送還ってことで……とか思ってるとサイオスの奴は食事を終えて席を立った。


「まあなんでもいいや。俺はラーゼ様を守る為に来たからな。ああ、大丈夫プリムローズのメンバーならついでに守ってやるさ」

「ついでって……」


 なんかミラが納得できない風にそう呟く。まあサイオスの奴は私しか見てないからね。でもなぜか私の正体には気づかないけど……こいつの脳内はどうなってるんだろうね。


「ちょっ! サイオスさん、ここに留まるつもりですか? 社会奉仕は?」


 犬次の奴が慌てたようにサイオスの背中にそう声をかける。するとサイオスは振り返らすに一言だけこういった。


「俺にはやるべきことがあるんだ」


 かっこいい……なんて私は絶対に思わないよ。


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