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触れ合う手が熱い。血液がまるで沸騰してるかのようだ。この手がなくなってしまわないか……そんな心配をしてしまうほどに自分はおかしくなってる。だって……だってだよ……シシちゃんと手をつないでるんだ。繋がってるんだよ。これて興奮するなってのが無理な話だ。確かにマネージャーとしてやってる時に、少し触れる――とかは何回かはあった。その度に実は何回もこの仕事をやっててよかったって思ってた。
それだけで……よかったんだ。なのに今は、今までの一瞬……刹那ではない時間をシシちゃんに触れてる。正直、こんなに女の子に触れたのは今が初めてだと思う。もうすでに人生に悔いがないほどの満足度に達してる。だって彼女はアイドルで……ステージに立てば沢山の人を夢中にすることが出来るほどの凄い人だ。誰もが彼女ことを好きな筈。そんな女の子と、こんな冴えない自分が手を繋いでる。夢なんじゃないかと、正直思う。
シシちゃんの手は小さい。沢山の人達に夢を与えてるとはおもえない程に小さくて……そして華奢だ。それでいて、ずっとこうしてたいと思えるほどに手触りがいい。思わず撫でてしまうほどに。
「なんか手つきがやらしいんだけど?」
「いや!? これは……そのっ――」
シシちゃんが訝しげににこっちをにらんでくる。そんな見つめられると……更に頭が混乱してしまうよ。なのに彼女の手を自分の手が離そうとしない。いやエスコートしなくちゃだし、離す必要はない? けど流石にずっと手を握ったままなんて……そんな……そんなことをしたら自分が死んでしまう。
「――と、とにかく行きましょう」
「そうね。いつまでもここにいても仕方ないしね。もう皆行っちゃったし……それに――だし」
「えっと、最後の方がちょっと聞き取れなかったですが?」
自分がそういうと、シシちゃんは「なんでもないから」と言った。時分みたいな奴が追及なんてできない。なので何かこれからの行き先の希望がないか……それを訪ねることにする。
「その……シシちゃんはどこかいきたい所はありますか?」
「私、ここの事何も知らないし。だからお願いしてるんですけど?」
「そ、そうですよね!」
何だろう……言葉はいつも通りに丁寧なんだが、そこはかとなくプレッシャーを感じる。やっぱり自分なんかと一緒に歩くなんてシシちゃんは嫌なのかも……いや嫌に決まってる。何を勘違いしてるんだ。彼女たちが自分たちに良くしてくれるのは彼女たちがいい子達だからだ。間違っても、自分たちに魅力があるからじゃない。それにラーゼ様が自分たちを連れて来たってのもあるだろう。本当の意味で、まだまだ自分たちは認められてない気がする。
それこそ、あんなことをやってしまったわけだし、認められてるわけがない。二人とも頑張ってるけど……それは頑張りでどうにかなることじゃない。信頼ってそういうものだし……
(だからこそ、今日頑張って少しでもシシちゃん達の信頼を勝ち得る!)
それは自分たち全員の目標だ。
「あっでも――」
そう思って気持ちを持ち直した所に、シシちゃんがズイッと迫って上目遣いにこちらを見ていってくる。
「――ちょっとだけ聞いてほしい事あるんだけど……いいかな?」
かわいい――――それが自分の頭を支配する。自分は食い入るように「もちろん!」と答えた。




