θ12
「うぬが下手人か!?」
そんなことをのたまって歩いてくるそいつは威圧感が半端ない。いやまあ、大きさだけならグルダフの方が全然大きいとは思うんだけど……なんていうの? にらまれてるから? こんな真正面から敵意を向けられるのも久方ぶりだから、余計にそう感じるのかもしれない。だって普通は私に向けて無礼働くような奴らはもうこの国はそう相違ないもん。
それだけの影響力が私にはあるのだ。
「むむ、女子ではないか。いや、だがしかし、友をこんなにした輩なら放っとくなど……」
私のことを女と看破してなにやらブツブツと言い始めるそいつ。てかまだ私がラーゼだとは気づいてない様子。とっさに帽子を目深にかぶったのがよかったかな? あとは指輪の効果でもあるだろう。その間に少し観察。
(ふむふむ)
そこで倒れてる三人とは違って、こいつは服の上からでもわかるほどに筋肉がついてる。まあ腕は出てるからそこだけでも十分鍛えてるなってのはわかるんだけど、着てるシャツがぱつんぱつんだからね。下はダメージジーンズなのか、マジでダメージ受けたのかわからない感じのズボン履いてる。まあ別に特におしゃれとかでもなく、そこまで常識はずれしてる訳でもない。
まあ変わってるところがあるとすれば、その四角くいかつい顔にはさらに赤いインクか何かで顔を横断するように線が引かれてる事だろう。ああいうのが男性の間で流行ってる……とはきいてないが? なかなかに奇抜ではある。そう思ってると彼の思考が出口へと到達したようだ。
「こんなことを女子だけでできるとは思えん! お主は犯人ではないな!!」
「いえ、私がやりました――てへ」
「下手人が! 首を差し出せ!!」
あらら、否定したのが悪かったみたい。ここは乗っとくべきだったか。でもなんか「してやったり」みたいな顔してたから……ついね。私はひねくれてるから、ついついやっちゃうんだよ。赤線の彼はその筋肉をボコボコと膨らませている。自己強化? でも魔法を使ったにしてはその動作がなかったよ。無詠唱? けどこの顔で?
(ちょっとあり得ないよね)
無詠唱とかかなりの高度な技術が必要だよ? それをこんな猪突猛進を体現したような奴ができるとは、流石に思えないんだけど。けど確かにそれはなされてる。カードを使った? でも戦闘用の魔法が組み込まれてるのは市販されてないはずだけど……
(というか、女の子にこれはどうなの? 脅しかな?)
そう思ってると、案の定赤線は警告してきた。
「俺は女、子供には手は出さん主義だ。だが、友が傷つけられたとあっては話は別だ。謝るのなら許してやろう」
「謝る? 何に対して?」
さっさとごめんなさいしてしまえば、この人と対立する理由なんてないのかもしれない。けどね……わたしはそうそうあやまったりなんてしない。私の頭はそんな軽くなんだよ! そこまで詰まってもないけど、私にもプライ――立場ってものがあるからね。偉くなると軽々しく頭は下げちゃいけないのだ。そういうものなんだよ!
「お主は自身の罪をわかっていないのだな……」
そう言って静かに拳を前に出して構える赤線。私は少しだけ動揺したけど、丸い帽子を片目側だけ指で押しあげて視線を絡ませる。そして言ってあげるよ。
「私にどんな罪があろうと、私を裁くなんて出来ないのよ」
なんかかっこいい事を言って満足してる私。けど一触即発の空気が周囲の人々の足を止めてることに、この時の私は気づいてなかった。