Σ94
どんどんと傷が増えていく。流れ出る血は……もうそう長くは保たない事を知らせてる。ためらってる場合じゃない。ここを終わらせたらこいつはもっと奥に進むだろう。こいつ一人でも、充分人種を滅ぼせる力がある。それだけこいつは理不尽に強くて、そしてそれだけ人種は圧倒的に弱い。負けられないよ。まだたった一年位だけどさ……この世界での思い出もそれなりに出来てきてる。
ただの傍観者で要られたら……こんな苦労、する必要なんてなかったのかもしれない。けど、私は背負ったから……この世界の人種の希望って奴を。本当はカタヤさんにだけその責任背負って貰いたかったんだけど……今立ってるのはもう私だけだ。私がやらなきゃいけない。
激しい攻防の最中、私は意を決して黒い炎を出す。それを自身を含める周囲に広げる。
「そうだ、それでいい」
距離を取ったオジサン鉄血種がそんな事を言ってる。私が何をしようとしてるのか……奴はわかってるんだろう。一度やったことだ。恐れる事なんか何もない。だだ何かが……自身の何かを失うだけ。そういえば私はこの世界に来て沢山の事を失い続けてきたのかもしれない。向こうの記憶を現在進行系で失い続けてるし、同胞と呼べる人達だって、数える事も出来ないくらいに戦場で失ってきた。
そしてここでは最も繋がり深い人達さえ……私がアンティカに乗って救えて来た人達はとてもすくない。失い続けてるんだずっと……けどそれでも道は閉じなくて、続いてるからずっと歩けてて……
(失う事は、終わることじゃないから)
私は出した黒い炎を自身の内側へと舞い戻らさせる。身内が燃えるように熱くなる。だけどそれと同時に傷から黒い炎が出てきてそこを覆ってくれる。すると痛みが無くなった気がした。深手を負った脇腹も既に痛みは何処かへ消えた。そしてハステーラ・ペラスにもその火は移って全ての欠片から黒い炎が立ち上る。それは奴には見られない現象。
更に私の髪が異様に長くなったかと思うと、それも途中から黒い炎へとなってた。私という存在と、黒い炎が溶け合ってる。
「人の身のままでそれを成すか。私よりも相性が良いみたいだな」
そう言ったオジサン鉄血種は腕を翳してハステーラ・ペラスを撃ち放つ。音も無く迫る無数の斬撃。それに対して私も燃え盛るハステーラ・ペラスを打ち上げる。こっちは炎の影響か、爆発音の様な音が無数に重なり合って響いた。そして一気に斬撃の雨をうがいてオジサン鉄血種へと刃を届かせる。
「いいぞ。そうでなくてはな!!」
痛みにうろたえる所か、逆に歓喜して奴はその手に黒い剣をとりだした。そして一気に近づいてきてその剣を振りかぶる。私はそれを防いだけど、衝撃が街を破壊する。私は死角から無数のハステーラ・ペラスを奴の体に貼り付ける。そして一気に黒い炎を滾らせた。
「ぬおおおおお!? この程度!!」
奴は燃え流れも反撃を繰り出してくる。突き刺さる奴の剣も燃えている。自身の黒い炎とは違う痛みが全身に走る。けど、こっちだって負けられないんだ! 私はその突き刺さった剣を更にのめり込ませて前進した。
「ほんとこの程度だよ!!」
そう言って私たちは笑い合う。そして互いのハステーラ・ペラスがぶつかり合う。同時に私は銃を、オジサン鉄血種はその手を固く握って繰り出してくる。僅かだけど、炎を纏ったお陰で私のハステーラ・ペラスの方が奴のハステーラ・ペラスよりも高性能になってる。それを利用して私は奴のハステーラ・ペラスの攻撃をこっちは少しだけ余裕を持ってさばける。
その余裕でこの近距離の攻防に差をつけるんだ!!
迫ってくる拳の軌道をハステーラ・ペラスで防ぐ。これだけ近いと軌道を逸らすとか無理だから! 私は銃に自身で魔法を込めて撃ち放つ。これだけの至近距離。黒い炎に変換される私の魔法を弾丸に込めれば、それは充分な兵器となるはず。けど、奴は止まらない。何度も何度も拳を叩き込むオジサン鉄血種。その間にできるだけ私は弾丸を叩き込む。
けどついには奴はハステーラ・ペラスを叩き壊して、黒い炎を纏った拳を叩き込んでくる。意識が一瞬で持ってかれそうになる。けどそれを気合で振り切って弾丸を打ち続ける。もう互いにどちらかが死ぬまでこの戦略もなにもない殴り合いをやめる気はなかった。身体がどんどんとなくなってく。それでも私は動いてる。もうなんで動けてるのかもわからない。
肉体はとうに限界を超えてるのは明らか。でもそれでも心だけで、私は命を限界以上に燃やして燃料にしてた。そんな時だ。身体の半分が灰になったオジサン鉄血種の動きが止まる。気付くと赤いマナが周囲を満たしてた。ここできた……来てくれた。ゼウスは、あんなになってもまだ散布を続けてたみたいだ。散布率百パーセント。
マナリフレクターがこの空間を満たしてる。