Σ91
私の周りには鉄血種の亡霊の様な者達がいる。自由にそいつらが喋り合って煩いくらいだ。思ったけど、もしかして私以外にこの顔は見えてない? 声も聞こえてない? てかさっき殺されたのに、皆なんか歓喜してるような? 進化の鍵とか一人が言ってた。それを実感してるのかもしれない。これ……私という存在はどういう扱いなのだろうか?
だってまだ私のアイテム扱いだよ。進化とか言ってる場合か? って感じ。いま……この場にいる鉄血種は既に一人だけ。あのオジサン鉄血種だけだ。
『あの方がくるぞ』
『あの方を取り込めばきっと我等は……』
『ああ、近づける。上の次元に』
そんな事を言ってる鉄血種共。するとオジサン鉄血種の笑い声が響き渡った。
「わっはっはっはっは!! いいぞ、よくぞ同胞を食い尽くしハステーラ・ペラスをそこまでにした。これで準備は整っただろう」
準備って……こいつはまさかこうなるまで待ってたって事? 仲間さえも倒されて、そしてこのマント……ハステーラ・ペラスがここまで進化するまで待ってたの?
進化とか……鉄血種達は言ってる。こいつもそれを狙ってるだろうか?
「後、一人なら!!」
「ああ、俺達ならやれる! やれるぞ!!」
鉄血種だって倒せる……それを確信してしまった皆は一斉にオジサン鉄血種に銃弾を撃ち出した。
「やめ! だめ! 皆!!」
けどその声は届かかない。勢いに乗ってると思ってる皆はその手を緩める事はない。
「亜子! もうアイツだけだ。やるしかない!」
「そうだ。今の亜子殿の装備なら――やれるだろう」
カタヤさんとグルダフさんがそう言ってくる。確かにやるしかない。やるしかない……こいつを倒せれば終わると思う。けど……取り返しも付かなくなる気もする。こっちがやられるにしても、私達が勝つにしても……だ。だって、私が取り込んだ鉄血種達は、奴を倒す事を望んでるんだから。
「行くぞ。ハステーラ・ペラスの到達点。それの使い方をよく見ておけ」
そう言ったオジサン鉄血種は自身を黒い炎で包む。すると空の月へと黒い炎が昇って、逆に赤い月から、ドロっとした真っ赤な液体が流れ出る。それに包まれたオジサン鉄血種。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
赤い液体と、黒い炎を吹き飛ばし、オジサン鉄血種がその姿をあらわす。黒い外皮に赤い血管の様な物が脈動し、瞳は飛び出し真っ赤なそれが輝いてる。マントはない……いや、これは私と同じ様になってる? てか、黒い炎が奴の身体事態から出てる様な? 一体化してる?
「行くぞ」
ゾクッとした。不味い! 私は前に飛び出でマントを展開する様に思い描く。
「皆、私の後ろっに!?」
身体を一瞬縮めて力を溜めたオジサン鉄血種がその身体を広げたと同時に黒い炎が全周囲に放たれる。聞こえる断末魔の叫び。一瞬にして燃え尽きた兵士たちの叫び。私の後ろに居た人達は助けれたけど……他の人達は……超耐久性の身体に確殺出来る黒い炎とか、反則にも程がある。今の一瞬で皆の勢いは完全に止まった。こいつは違うんだ。
それをきっと皆も理解したんだろう。
「隠れてください!」
その言葉で皆さん物陰へ散っていく。相対するのは私とグルダフさんとカタヤさん。けどオジサン鉄血種は私しか見てない。どうやらほか二人は眼中にないようだ。そんな熱視線……全然いらないんだけどね。




