Σ88
「ぎゃああああああああああああああ!!」
断末魔の叫びと陽の光の中で……まるで昇天するかのように、女鉄血種は燃え尽きた。私のマントにも黒い炎の残り火が滾ってる。どうやら私のマントは進化してるから耐えられたみたい。そうじゃなかったら……多分私も自身の炎に耐えられなくて跡形もなく燃え尽きてただろう。左腕は元に戻ってる。
「はあはあ……」
膝が地面につく。かなりの体力……いや魔力? ……なんだかそれとも違う何かを燃やしたみたいに疲れてる。マナの供給はピアスのお陰で、尽きることはないはず。体力は自分でわかる。けど……これは分からない。私はとても大切な物を使った様な気がする。
「くっ――」
女鉄血種は消えた。けど、鉄血種全部を倒したわけじゃない。直前に放った分身体はとっくにやられたみたい。鉄血種がこちらに向かってくる。不味い……さっきのの後遺症でまだ身体の自由が……
「撃て! 撃ちまくれえええええええ!!」
そんな声が響くと同時に、銃弾の光が鉄血種へと殺到する。それで止まる奴らじゃない事はわかってるはず。けど皆危険を顧みずに攻撃に転じてくれた。でもこれだけの弾丸の雨でも奴らは速度さえ落ちない。
(このままじゃ駄目だ……こうなったら)
流石のマントの動きも鈍くなってたけど、私よりもぜんぜん頑丈なマントだ。既にかなり動きは回復してる。マントは私の意志で動いてくれる。力は必要じゃない。私はマントを二つに分けて、それぞれタイミングをズラして、中の鉄血種を鉄血種共に向かって投げつける。普通の弾丸では効かなくても、鉄血種自身なら入るでしょ。
案の条銃弾の雨に紛れたお陰で、鉄血種共は何人か巻き添えで動きが止まった。けど全員じゃない。プルプルと震えるけど、なんとか動きそう。そう思って立ち上がろうとした時、私の前に大きな背中が降り立った。そしてその身で鉄血種の攻撃を受け止めてくれる。
「グルダフさん!」
「心配するな、俺たち獣人は人種ほどにやわではない!」
確かにグルダフさんは鉄血種の攻撃を受けてもその斧で反撃仕返してる。するとその時、さらなる声が届いた。
「亜子! 僕の剣を!」
剣? 視界に映る一体の鉄血種は見覚えのある剣を握ってる。使われてるんかい! って感じだが、それはしょうがない。私は二つに別れたマントを使ってそいつに狙いを定める。そいつも邪魔なグルダフさんを狙ってる。けどこういう時に限って空間移動を使ってくる輩が居るもの。私はグルダフさんのお陰で隠れてる背後で分身体を作り出す。
そしてそいつが剣を振り下ろすのに合わせてマントで顔を覆ってもう片一方で剣を握った腕を包む。すると私の背後で分身体が壊される。ゾッとした。こいつらは当てずっぽうで攻撃してる。
もしかしたら今のが私に当たってたかもしれないんだ。運が良かっただけ。けどそれを掴み取ったとも言える。私は掴んでた鉄血種を背後に回った奴に投げつける。そいつの腕には既に剣はない。なぜなら包んだ瞬間に異空間に吸い込んでいたからだ。そしてそれを出してカタヤさんの方へと投げる。こっちに気を取られてる鉄血種共は、それを余裕で見逃した。
主の元へ戻った剣はその輝きを取り戻す。陽の光が一筋入ってるそれを集める様にカタヤさんの周りが輝いてる。その光は鉄血種にも見えてるのか、奴らが目を押さえて動きを止めた。
(ここしかない!!)
私はそう判断して、マントを目一杯大きくして広げた。そして周囲の鉄血種を一気に包み込んだ。




