Σ81
沢山の命が消えた。瓦礫に立ち尽くし、私はその瓦礫から出てる一本の腕を見てた。この腕はもしかして……あの女兵士さんの……
「あ……あぁ……あああああああ!!」
頭がおかしくなりそうだ。死が充満してる。責任と力……そんな物が私を押しつぶしそうだった。もっと上手くやれれば助けられたかもしれない。けど相手は鉄血種。それが無理だった事なんて頭では分かってる。でも、なまじ私は力を得たから、そして人を救う立場だから……この責任からは逃れられなくて……皆の魂が『なんで、どうして、助けてくれなかったの?』と訴え掛けてくる様な気がする。
「ごめんなさい……私は……私は……」
戦場は何度も経験してきた。辛い事一杯だったけど、それでも乗り越えて今まで生きて来た。けどこの戦場は違う。絶対に逃れられない死があるよう……命を刈り取る死神と呼べる鉄血種達。複数人で来られたら、全く持って対抗なんて出来ない。
「亜子殿! 立て! 死ぬぞ!!」
グルダフさんがそう言ってこっちに駆けて来る。流石に彼は無事だったみたい。けど私は立つこと出来ないよ。だって……皆私が不甲斐ないから死んで行く。
「私の……せいで皆……私は力があるのに……何も……」
「それは違う。いくら力があってもそれは万能ではないだろう。だからこれは君のせいじゃない。一人で背負い込むな。俺だって……」
そう言って辛い顔をするグルダフさん。けど彼は鉄血種によってふっとばされていった。それをしたのは例の女鉄血種だ。
「ふふ、ちょっと作品に出来るのが減っちゃったわね。けどまあ、貴女が居ればある程度は満足よ」
そう言って女鉄血種は私に手を向けて来る。私はどうしたらいいんだろう。こいつらを倒すなんて、実質不可能に近い。人がちょっと力を手にいれた程度じゃ、どうしようもない力……それがこいつらだよ。私の身体は動かない。もう疲れてしまったのかもしれない。もう……いいや。そんな気持ちで私はいた。
「おとなしく成っちゃって……絶望しちゃったかしら。大丈夫。貴女は一人じゃないわ。後で仲間いっぱい作って飾って上げるからね」
女鉄血種の手の先にマナの光が見える。あの変なグロテスクな物に私もなるのだろうか? ああ……なんだか全てが他人事のように思えてきた。
「亜子殿! 逃げろ! 亜子おおおおお!!」
そんなグルダフさんの叫びでも私の心は動かない。迫ってくる手。けどその時、女鉄血種の腕が横に吹っ飛んだ。そして続けざまに身体に穴が増えていく。
「どこから?」
けどそれでも慌てた様子のない女鉄血種。どうやら遠くから狙撃してくれた人が居るよう。なんとなくだけど……まさかベールさん? それじゃあ……まさか? 私は辺りを見回す。すると見慣れた金髪が目に入った。
「亜子!! 今行く!!」
「カタヤ……さん」
彼はたったひとりでこっちに走ってくる。私が気付いて鉄血種が気づかないはずがない。けどその鉄血種を的確なスナイプが妨害してく。合間を縫ってカタヤさんはこちらに近づいてくる。
「亜子! まだだ。まだ僕たちは負けてない! だから諦めるな!!」
心がドクンとなった。それは小さな鼓動だったけど……まっすぐなその言葉は確かに胸に届いたよ。少しずつ胸の鼓動が大きくなる気がする。こんな状況下で、なんの迷いもなく……そんな言葉が吐ける。私には出来ないよ。きっとベールさんにも無理だ。けどカタヤさんはそれが出来る。だからきっと……この人が人種の希望なんだ。




