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全ては始祖のため。でもそれは始祖が作った世界なんだから当然で……拒否する権利はない……ということ? 少なくとも蝶も始祖の龍もそう思ってるんだろう。
「でも……でもそれなら……」
わかったよ。全ては始祖のため。それには納得しよう。てかそっちのほうが私にも都合はいい。でも納得できないこともある。私は蝶にいうよ。
「なんで心を、感情まで作ってるの? 増えるだけなら、そんなのいらないじゃん!」
『感情……が何なのか私にはよくわからないよ。だからきっと勝手に発生したんじゃないかな? 私達は別にそんなこと意識なんてしてないと思うの』
たまたま……本当にたまたま感情なるものが生えてきた……だからそれは仕方ないというか? そんなのはどうでもいい? そう蝶は言いたいの? いや待っただ! 私は反論するよ。
「それはあんたはそうかも知れない。でもあの龍は多分違うわよ」
『どうして? 心なんてものはあってもなくても良いものよ?』
「それは違うよ。ただ増えるように命令されて実行するのと、生きると強く願って増えていくのとでは強さが違うよ」
私はそう宣言する。だってそうだろう。なんの感情もなく増えていく……それを義務のようにやっていく……ということでも増えるのかもしれない。効率を考えるのなら、それを極めて合理的な判断をやれるのなら、それでもいいと思う。
でもさ……始祖の龍はそんなやつじゃない。あいつが合理的? ないない。この蝶には確かに知性がある。でも始祖は誰もが賢いわけじゃないんだろう。別に私だって賢いわけじゃない。
人間性があるってだけだ。蝶にはそこら辺まったくない。ただ理性がある? そして始祖の龍には理性も知性もないが、野生がある。あとは食欲か? 始祖って完璧な存在かなんかだと思ってた。
だって始祖だし? でも考えてみたら、始祖の龍から全く完璧じゃなかった。でもそれはあいつと私が特殊なのかと思ってたけど、どうやらそういうわけじゃないみたい? 何かが欠落してる。それか極端なのが始祖なのか。なら私の極端なのってなんなのか?
それは考えなくてもわかる。それはこの「美しさ」だろう。私のとんがってる部分。それはそれ以外にない。とにかく始祖の龍が考えそうなこと……いや、野生のあいつは考えてないか。
ただ本能でやったんだ。
「あれが願ったんだよ。心を……感情を……そしてなによりも……生きることを」
そう――「生きたい」――という生命の根源の望み。それを始祖の龍がもたらしたから、あの世界の生命は強く、そして心をやどした。だってその「生きたい」という根源は始祖の龍の根源でもあるからだ。
それをあいつが理性で追い払う? そんな事は絶対にないって断言できる。




