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「蝶?」
きれいな蝶だ。鮮やかに、けど曖昧な感じの蝶。野生動物? 無に? いや、無だからって何もない……というのは偏見かもしれない。そもそも本当にここが無なのかはわかんないし?
勝手に私がここは無だ! と言い張ってるだけだし。宇宙でもなんでもないからね。宇宙は暗いが、この無は真っ白で、上を下も、奥も手前も……そして時間と空間の概念さえないと言える。
だから無。眼の前を飛んでたように見える蝶はいきなり手前に現れたり、その蝶に意識を持っていかれると、いつの間にか上下が逆転してたりする。何も安定してない。それが無だ。
確定された何かが何もない……全てが不確定で……けどここには何もないから、希望があるわけじゃない。可能性があるようでないような……いや、それを示せるのが、きっと創造ができる始祖……という存在なんだろう。
私は私の周囲をだけを安定させてその蝶を追う。きっと他の存在ならそれすらもできないだろう。だって一歩踏み出したら落ちるかもしれない。もしかしたら上昇するかもしれない。
自分は一歩と思っても、百年分先に歩いてる可能性だってある。なんでも起きて、なんにもおきない、けど自分の望む結果になりえない場所……それがここだ。本当なら、無をただ移動するだけでも大変。
だからこそ、私は自分の存在と周囲に干渉してるのだ。下手におかしなことが起こってもらったらこまる。一歩を踏む度に、行動を開始する度に、私が観測して、その結果を求めて固定する。
でも蝶の方はそんな事をやってるはずもない。だから色々と私の予測をこえてくる。いきなり距離が離れたり、足元に消えたり、周囲360全部に見えたり……ね。まるで万華鏡の中に迷い込んだのか? という感じになったりもした。
でもそんな中でも混乱したらだめ。私まで焦ったら、無に飲み込まれる。一度息を吐いて、私の認識……それをこの無に押し付ける!
私が片腕を前に広げると、万華鏡だった周囲はその存在を崩していって、ひらひらと舞うだけの蝶がちょっと先にあるのがみえた。私は考える。
「あれは、私の手の中にある」
すると次の瞬間、私の作った手のひらの檻に、その蝶は入ってた。
「さてさて、君は何者なのかな?」
私はそんな言葉を蝶にかける。




