#24
真っ暗だ。何も見えない。けど確かに私はここにいる。
(目覚めたか娘よ)
(ん……狼?)
真っ暗な中でその存在だけを感じる。始祖の狼……その力の中に私は居る? よくわかんないけどね。
(目覚めたのなら我はもう行くぞ。借りは返した)
(状況くらい教えてくれても良くない? 目覚めたら私どうなるの? てか何処で目覚めるの?)
私の最後の記憶は雲が押し下げされて見えた青い空……それが最後だった。あれからどうなったのか、分からない。実際自爆したわけだし、本当なら死んでるはず。けどこの狼は律儀にも私の事を守ってくれてたようだ。ってことは私はまだ生きてる筈。でも何処で生きてるのか分からない。スズリ達が回収してくれたのならよし……でもそんな余裕が有ったとも思えないんだよね。
そこの所この始祖の狼が気を利かしてくれてれば良いんだけど……どうだろうか?
(そこまで面倒を見る義理はない。貴様の命を繋ぎ、肉体を再生させてやっただけありがたいと思え。それに――)
なにやら始祖の狼の声が少し筈んだ様な? そんな気がした。
(――貴様なら面白おかしく、その図太い性格で生きていけるであろう)
(なにその言い方? 美少女に対して失礼じゃない? てか再生ってちゃんと私美少女のままでしょうね? 寸分違わず私?)
そこ大切だよね。だって私完璧だったんだよ? この狼がどこかで再生ミスって一ミリでも私の美が損なわれたら、訴訟ものだよ。どこに出るかはわからないけどね。
(本当に図太い……貴様の言う美には何もしてはいない)
(おいちょっと待て、美にはって言ったな今。美にはって!)
それってつまり何かしたってことじゃん!! おいおい狼の基準で問題なくて私基準で問題あったらどうするのよ。なにしたか吐けやこの野郎。
(貴様の外見に影響は無いだろう。我の力を注ぎ続けた事がどう影響するかまでは知らんと言うだけだ。貴様にはゼルラグドーラの力もあるだろう? 最悪破裂しないかと思ってな)
(え? マジ? 私って風船状態だったの?)
確かに言われて見ればそんな感じするね。私を風船、力を空気に例えるならその通りだ。空気を入れすぎると風船は弾ける。力を使うと私の身体はだいたい耐えられない。まあ違いがあるとすれば、空気は調整出来るってことだね。私は力を大体調整できてない。いや、待てよ……
(ねぇ思ったんだけど、もしかしてあなた達の力って最小でも人の身体は耐えられなかったりする?)
(そうだな。そもそもが最小の基準が違うであろう)
(それもそっか)
確かにこの狼達の最小と私達の様な人の最小は全然違うはず。いわばコップの大きさが違う様なものだよね。こいつらからしたら私達の器なんてヤクルトの容器程しかないんじゃないだろうか? それに対してきっとこの狼やゼルラグドーラは二リットルのペットボトルって感じだよね。もしかしたらゼルラグドーラは私に気を使ってかなり極小の力だけを渡してたのかもしれない。
けどそれすらも人種には耐えられない。貧弱だよねほんと。でも中に留める事が出来るのはどういうこと? 風船のたとえ的に不味くない?
(マナという力は意思を読み取る。それは体内にある時の方がより強い。つまりはそういうことだ)
(つまり風船の中の空気に意思を伝えて破れない様にしてるって事?)
(マナはただの空気ではない。力そのものだ。その力が貴様の身体を耐えられる程の物に変えてるのだ)
(なるほどね)
納得できました。つまりは風船のゴム自体を別の超強力な物にしてるってことね。そんな事を教えてもらってると、辺りが白くなってきた。
(貴様の身体の目覚めを近い。もう行くぞ)
そう言って薄らいでく狼の声。まだまだ聞きたいこととかいっぱいなんだけどな? そもそも私がどういう状況か結局わかってないしね。でもまあいっか。生きてる……それが確実ならそれでいい。
(ありがとうね狼)
(……バルフゥルンデだ。狼狼言うな)
(あはは、うん、わかったバルフゥルンデ。私もラーゼだからね!)
(……ラーゼ、貴様の生きる時代は楽しくなりそうだ)
そんな風に言ったバルフゥルンデの声はなんだか優しく聞こえた。。だから私は最後にこう言ってやった。
(任せとけ!)
白に溶けるように周囲が包まれる。そして重い瞼を開けると、再びそこは真っ黒だった。おいおい……いや、もうほんとおいおいしか思えないよ。