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一人であの場所を飛び出して、儂は歩く。専用の道じゃ。やはり始祖に見つかるわけにはいかぬし、そして宇宙は広い。だから専用の道も予め作っておいたのだ。じゃが……儂の空間から出ると、いきなり儂の魂……存在が危ぶまれるほどの重圧を感じた。
これが宇宙全体に蔓延してるとしたら……どれだけの神が無事なのか。これでも儂のこの宇宙はマシなほうの筈じゃ。円環によって影響を弱体化させておるのだから。それでも、この儂の足が重くなるほどの感覚がある。根源から湧き出す恐怖のような……それを感じる。
それでも脚を進める。とてもとても重くて、行きたくない……と思ってしまう。今進んでるのは神のトップとしての責任感。そして儂の名のもとに集ってくれた同胞たちへの責任感だ。
「よし……」
儂は両手を軽く広げて自身に結界を付与する。本当にここに来たのは儂一人。万が一にもバレるなんて事が起きたら生き残る可能性はその時点で0かもしれぬ。なので保険は色々と必要じゃろう。
出来る事は全部やっておく。白い光、赤い光、青い光、黄色い光……それらが順番に儂の体を包む。そして馴染んでいくと、儂はようやく道……を開いた。そしてそこからとりあえず手だけを出した。
中央の宇宙に出たのはたった一つの手……それは広大な宇宙において、塵みたいなものだ。大海で遭難した船を見つけるよりもはるかに難しい筈。手から見えることはない? そんなことはない。やり方一つで、手でも視界を確保することは出来る。
なにせ儂ら神はエネルギー体だ。形などにさほどのいみはない。神なら、何だって出来る。儂は出した手で視界を確保する。ここから中心の宇宙の中心まで、まだ数万光年はある。だが、それでも『見る』。
視界をズズーと伸ばしていって、始祖の龍が封印されてた本当の中心を覗いた。
「これは……」
思わず声が漏れる。今まで、封印によってその姿を直接目にしたことはなかった。それにまだそこにいるかもわからなかった。だが、どうやらちゃんとそこにまだ始祖の龍はいた。それはよかったことなのか……と問われれば難しい。なにせ……だ。なにせ儂は……その姿を見た事を後悔してるからだ。
禍々しくも神々しい、肉体の所々に無が現れてる龍が始祖の龍だった。その基本の色は灰色で、その鱗には沢山の細やかな粒子がみえる。だが色々と歪だ。無があるといったが、そのせいでその体には欠陥がみえる。
首と胴体の間に無があったり、羽の一部が無になってたり、顔の片目も無に覆われてる。そしてその反対の目は青い炎がともってる。あれが始祖の龍の姿。龍という基本の形をしてるのも意外ではあった。




