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最高のライブ、最高のパフォーマンス……きっと私はこの日を生涯忘れる事はないだろう。家族も思わず泣いてた。それだけ感動をしたという事だろう。やりきった達成感。そしてライブ後の打ち上げを楽しんでると、私が持ってる世界滅亡の記憶は夢だったんじゃないか? と思い始めてた。だってあの日……その日までに変な音が空から鳴ってた筈なのに、誰もそのことを覚えてなかった。もうこれは夢の線が濃厚だと思ったんだ。自分のホテルの部屋に戻ってきて、ようやく解放されて一息をつく。
子供たちは別室だが、夫は一緒だ。でも彼は裏方である関係上、まだまだやることがあるみたいだ。今は私は一人……私はソファーに身をゆだねて夜景を眺めてた。都会の光は文明の光だ。それは煌々と輝ている。この星で、自分たちこそが覇者なのだと……そういってる。そして空をみる。別に何もおかしなところはないようなきはする。いつもの空なのかは知らないが、夜空から恐ろしい何かがやってくるような気配はない。
くいくい――
ソファーに投げ出た両手。それがまるでアンティカを操縦するような動きをする。何十年も触ってないから、もう覚えてるはずもないのに……なぜか最近動かしたかのような感覚がある。最初は手だけだっだ。けど足もなんか動いてくる。そうなると、どんどん思い出すような気がしてきた。投げうってた体を起こして、前傾姿勢になる。とても恥ずかしいかもだが、まるでアンティカで敵を相手にしてるかのような……そんなシュミレーションを私はやっていた。
そして、それも妙にリアルで、アンティカよりも強い相手を想定してた。
「何やってるのよ」
私はふと気づいてやめた。だってこんな……ね。子供でもないのにまるで乗り物に乗ってるかのようなシュミレーションをしてソファーで体を揺らしてるとか……いい歳した大人が見られたら恥ずかしいだろう。なので早々にやめたのだ。でも……なぜか夢のようにおもえなくなってた。
夜景をパノラマかのように見せてる大きく広い一面の窓に近づく。自分の全身の姿が映った。リラックスした服装をしてる私。老けてしまった私が映る。感覚的には十代にもどったみたいな感じなのに……映る私はもうおばさんだ。それは間違いない。夢だったと、思い込むことは簡単だ。でも……
「ラーゼ、いるの?」
『あらら、なんでわかったの?』
窓に映る私の隣……そこにあの頃と変わらない姿のままのラーゼが見える。




