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「それでどうするつもりなの?」
そういってくるラーゼちゃん。手のひらに顎を乗せて、自身の髪の毛をクルクルとしながら、そんな風に、なんでもない事のようにきいてくる。私の言葉なんて別に重要じゃないみたいな……けどそれに不快感はない。
むしろただの平凡の延長線上のようでありがたい。
「どうしよっかなー」
私も能天気にそんな風に言って椅子の背に背中を思いっきりあずける。前の方の椅子の足が不安定にうきあがる。チラッとラーゼちゃん見てみると、宝石のようなチョコレートをそのプルンプルンの唇に当てていた。
「じゃあ断るんだ?」
「だって、これってただの生贄でしょ? 始祖のパートナーになって、何があるのよ?」
「この宇宙が救われる?」
「それ、確実だと思う?」
「そうだね。半々……いや、もっと低いかもね」
「そこだよ」
私はガタンと音を立てて、今度はラーゼちゃんに近づく。彼女が口に当ててたチョコレート。それを彼女の手首をつかんで、その指ごと、私の口にふくむ。
(うん、甘い)
それはもしかしたら彼女の指の甘さかもしれない。いつだっていい匂いしてるからね。まあ流石にチョコよりも甘い事はないと思うけど……
「あまりにも賭けすぎる。私はそんな賭けに自分の命や、存在をベットできない」
「それならそのままいえば?」
「でもそうしたら、希望はついえるのよ?」
はっきり言って、進んでも後退しても後がないのだ。分が悪い賭けに出るしかない状況……やってられないよマジで。
「私なんかよりも、自分のパートナーたちと話した方がよくない?」
「それももちろんやるわ。彼等をないがしろになんてできない」
「まあ結局、あんたは受けるんだろうけどね」
もぐもぐと自身もチョコを新たにとって口に運ぶラーゼちゃん。そんな確信めいた事……言わないでほしい。
「なんで……」
「アーミュラだから」
そういっていたずらっ子のように笑うラーゼちゃん。私を何だと思ってるのか。たしかに私は面倒見いいけど、この宇宙全体の面倒なんてみれない。
分不相応だ。そんなのはもっと長く上位にいた神達にやってほしい。それが責任では? それなのに、上位の神で積極的にこの宇宙を救おうとしてるのはゼーファス様くらいだ。上位の神が全員、同じ方向を向いて一致団結したら……いや、こんなのは何の意味もない夢想だろう。
ゼーファス様だってそれがわかってるから、きっとそれを口にしないんだ。
「まあそうな風に困ってそうなアーミュラにプレゼント」
そういって何やら手を差し出してくるラーゼちゃん。綺麗で小さな手だ。美しさしかない。けどプレゼントという割には何もない。もしかしてプレゼントは私? 的なやつ? それはそれで嬉しいけど……私はとりあえずその手をとった。
「んっ!? ラー!!」
私は今度は大きな音を立てて、そしてテーブルの上の色んなものを吹き飛ばして立ち上がる。綺麗だった湖畔は荒れて、そして青空は厚い雲で覆われる。
私は怒ってた。だった今のは……攻撃してきた? でも目の前のラーゼは余裕綽々そうにお茶をのんでる。私の怒りを彼女はいなしてる。なんか勢いが削がれる。攻撃……したよね?




