Σ53
見えてた肉があっという間に皮膚の下に隠れていく。そして私を見て地面を蹴ろうとした。だけどそこで少女は浮けなかった。なぜならその足には枷をはめておいたからだ。枷というか魔法で地面に拘束してるだけだけどね。私の銃もパワーアップしてるのだ。煙が満ちてる時に仕込んでた。更にまだまだやるよ!
「拘束完了!」
『了解、射線から退避して下さい。三秒後に撃ちます。一・二――』
五つの塔に設置された砲台の一つから光が放たれる。それは建物を吹き飛ばし地面を蒸発させて無慈悲な後を穿った。えげつない威力。これは流石にやったのでは? と思った。街に相当の被害が出ちゃってるけど、私たちはちゃんと避難してる人たちに影響がない様に位置を選んでるから問題はない。多分。本当に大丈夫だろうかって威力してた。
どうやら結構いい兵器を持ってるみたい。まあ端っこの方の領だしね。他種族との戦いが多いから武器は揃えてるんだろう。それならファイラル領は? ってことになるけど、あそこはそこまで好戦的な種もいなくて、そもそもが狙われるような大地でもなかったから、あんな何も無かったんだろう。どうやらここの兵士たちは練度も高いし、本当に戦い馴れてる感じがする。
領主はあんなだったけど、兵士たちは油断も侮りもしてない。だから今もみんな隠れてじっと息を殺してあの少女がまだ動くかどうかを見てる。
「うわああああああああ!」
緊張の中、そんな声が響いた。まさか別の鉄血種が? けどどうやらそうではないようだ。穿った地面に少女の姿はなかった。そして更に一つの建物の壁が吹き飛んだ。地面を跳ねる兵士が一人。止まったその体には頭がなかった。壁に空いた穴から鉄血種の少女がその姿を現す。頭を抱いてだ。ダメージは受けてるようだ。布から見える手足は骨だけだった。けどそれでもなんの問題もなさそうに見えるけど……
もうああなると、体に意味があるのか? って思う。人種なら生きてられない傷のはず。けどそれでも奴らは動き、殺すことができる。少女はその頭にかじりついた。そしてかみ砕き、パリボリと平らげてく。すると左足が元に戻った。食べれば食べるだけ回復できるようだ。
『い班が壊滅しました。さらにふ・は班も同様です』
通信は状況がよくない事を伝えてくる。そもそもが砲台までもってけたのがまだ私達だけだ。しかもそれで判明したのも一撃では奴らはやれないって事。何発撃ち込めば消滅させられるのか……
「ゼロ、散布率は?」
『四十七パーセントです』
「まだ……それだけ?」
このペースじゃ、百になるころには一体何人が生きてられるか……あてにできない? いや、でも……砲台でもダメじゃ、マナリフレクターに賭けるしか……けどこの散布率の上昇率の低さをどうにかしないと。想定よりも確実に上昇率が悪い。砲台を使うにしても罠にはめるにしてもどれだけダメージを与えても普通に動いてくるのなら、想定以上に不味いよ。
やっぱりマナリフレクターで奴らの力を削ぐ……それからじゃないと……
「何か上昇率を上げるすべはないの?」
『数を増やすのが一番確実です』
「それができたら、最初から用意してるでしょ!?」
そもそもゼウスに積んでるのだって試作機だ。プロト・ゼロのデータをもとに作った。量産機の試作型。あれはゼウスに積んでる分しかまだない。
「想定よりも散布率の上昇幅が低いのはなんでなの?」
『鉄血種の周囲はマナが異様にうごめいてるようです。それが影響してるのかもしれません』
「つまりは鉄血種の数を減らさない事には散布率の上昇幅は低いままって事?」
『そうなります』
絶望的なんですが? そもそも鉄血種を倒す切り札的な物なのに、鉄血種の数を減らさないと、効果発揮できないってなにそれ? 矛盾してない? いや矛盾はしてないか……ただ、今の段階ではあてにできなくなっただけで。
「それなら弱点を突くしか……」
どんな種にも弱点というものはあるものだ。得意な事があれば苦手な事もある。それが生命。けど、無慈悲かな……上位種はその苦手が、人には到達できないレベルだったりする。
つまり私達から見たらそれは弱点でもなんでもないって事があるってことだ。奴らの弱点がもしもその類なら……本当に打つ手がなくなる。すると今度はオペレーターから通信が入った。そしてそれは……残酷な報告だった。
『ただいま緊急通信が入りました。顔爛種が別の領への侵攻を開始したとのことです。首都の部隊もその対応に……つまりは援軍は来ません。もう一度伝えます。援軍は来ません』
それは昼間を照らす明かりが落とされるかのような報告だった。みんなの心にはきっと夜の闇が広がってるだろう。私だって……




