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208/2419

Σ43

 何かが前方から飛んでくる。それは人種とあまり変わらない大きさで形をしてるように見える。その数およそ三十……それが全てで、だがそれだけで人種を滅ぼせるだけの力を有した種。『鉄血種』……それが父上が邂逅した種だった。生き残った者たちからそれを聞いていた。だが、この目で見るまでは信じられなかった。だって鉄血種は人種にとって最悪の敵だ。

 

 他の多くの種が、そこらの蟻の様に人種を無視するのに対して、こいつらは定期的に人種を襲う。なぜなら……奴らにとって人種が餌だからだ。だがそれも数十年に一度というくらいの頻度だが……だが、その度に一つの村が……町が……消え去ってきた。奴らは一番人種に被害をもたらしてる種なのは間違いない。だからこそ……父上は奴らに狙いを定めてたということなのかもしれない。

 だが……結果はこの通りだ。父上は死に、この領は危機に瀕してる。いや、この領はもう実質終わってる。だがそれでも……やらないといけない。すでに奴らは食事を済ませてるはず。

 

 なのにここまで来た。実際鉄血種の食事の量はわかってない。人一人で事足りるとも言われてるし、一人で百人単位を食らうともいわれてる。それは奴らが襲撃するたびに、その規模がまちまちだからだ。村一つの時もあれば、町がいくつも消えることもある。奴らの数に変わりはない。なのにばらつきは大きい。それがどういう事なのか……わかってない。

 

 だが、それを俺たちが気にしても仕方ないことだ。何せ奴らは俺たちを食らうためにここまで来たのだから。奴らが人種の前に姿を見せるのは、食事の時だけ。それは長い間の伝承で確信されてる。

 

 だから俺たちが思うのはせめて、俺たちだけで済めばいいということだ。沢山粘ってなるべく領民を遠くに逃がす。そして、なんとかして満足してもらう。殺される相手を満足させないといけないなんて……どんな冗談だ。だけどそれをしないとセラスが……奴らは黒い布をなびかせて近づいてきてる。その進みはゆっくりだ。今なら簡単にあてられる。

 

 だが、それが開戦の合図になるだろう。奴らの力は伝承に様々ある。けど、実際のところはわからない。伝え聞くのと、目の前で体感するのは明らかに違うだろう。だからこそ、父上たちは負けたんだ。それはあっという間だったと聞いた。だから俺は懸念しなければならない。そんなに簡単にここを通すわけにはいかないからだ。

 

 なら……奴らが動くまで待つ? それは論外だ。こちらから仕掛けなかったら、それこそどうしようもない。十分に兵を展開させて陣形を構築してる。少しでも奴らが一人を殺すのに手間どるようにだ。ここに残ってる者は皆、死をわかってる。皆が俺と同じなんだ。大切な人達の為にその命を散らす……その覚悟がある。だが、みんなただで死ぬかと思ってる。

 

 近くの皆の顔を眺めると、その心がわかる。

 

「充電は済んでるな?」

「もちろん! いつでも撃てます!」


 初手で出し惜しみなんてしない。一撃で決める気でないと、奴らには勝てない。古い大砲を改造して作り変えて生み出された高出力の魔力砲台……それが四機ある。大量の魔光石を必要とするからそうそう使えないが、もうここには逃げ場などない。なら、使うのにためらいなどなし。それぞれが一撃分しかない。それを一撃ずつ打ち込むか? 

 

 否! 魔力砲は打ち出すまでに猶予がある。今でないと当てれないだろう。それなら、全部をここで使うべきだ。俺はそう決断して指示を送る。

 

「全砲門解放! 狙いは鉄血種!!」


 左右に二機ずつ展開してる砲台に光が集う。普通なら、ここで何か動きがあるだろう。だが、鉄血種に動きはない。けど俺には拭いきれない不安が背筋をなめてた。だが、これを使うしかないんだ! 

 

「撃てえええええええ!!」


 俺の言葉が響くと同時に、砲門から光が放たれる。それは目を開けてられない程の光だった。実際初めて使ったからこれほどとは思わなかった。そしてそれは大きく爆発音を轟かせた。視界が徐々に戻り、空を見ると、奴らがいた場所は黒い煙が満ちてた。確実に当たったはずだ。そう誰もが思ってた。そして皆が空を見てた時だ。何かが自然とそこに現れた。

 

 地面に立つ白い少女。黒い布に体の大半を隠してるが、足と肩から上を出した彼女は確かに少女だった。髪も唇も肌もすべてが白い。目は瞼を閉じてるからわからない。だが少女は人ではないと……わかる部分がある。それは離れてるからだ。体の色々な部分が微妙な空間を保って離れてる。一体どういうことなのか……何の意味があるのか……皆は空を見てるからきづいてない。

 

 俺だけが……俺だけが少女の存在に気づいてる。俺はいつも愛用してる銃を構えた。震えてる……間違いない……あれは鉄血種だ。だが……その容姿は少女そのもの……すると少女の目が開いた。それは真っ赤で……黒目と白目なんて概念はなかった。ただただ赤く輝く穴がある。そして開かれた口は小さい唇からは想像もできない程に開かれた。

 なにせ口の端の皮が避けて口が広がってる。そして中には鋭いキパが大量に見えた。俺はその時点で迷いを捨てた。引き金を引く。そして銃声が轟いた。

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