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Σ18

 ようやくワイバーンを振り切って目的の場所までついた。けど……そこは余りに静かだった。戦場……とは思えない。でもただの荒野は確かに荒れてる。地面は不自然に穴が空いたり、岩は崩れてたりしてる。それに駐留軍が建てたと思われる簡易的な建物もぺしゃんこになってる。

 

『くそ! 反応が何も帰ってこない』


 カタヤさんのそんな声が聴こえる。私もさっきからプロト・ゼロで周囲を探ってるけど……生きた反応は一つもない。駐留軍は全てやられてしまったということだろうか? 地面に近づくと、ところどころに血が染みた跡が見て取れた。けど……死体が一つもない。

 

『おかしいな……鋼岩種は人食わない筈だが』


 ベールさんがそんな風に言う。確か彼らは人を食べたりはしない。そもそも好き好んで他種族を食べるのなんて、魔物くらいだ。それに上位の種が別の種を食べる事が有ったとしても、こんな丸々はないはず。それは全部を食べる意味がないからだと教わった。そもそもが食事目的ではないから一部で充分だし、マナを取るだけなら、荷物にもならなくていい。


 まあ大体の種族的に人種のマナは弱いから取る意味なんて無いはずなんだけどね。だから基本、人種の死体なんて放置される。伝染病とかを嫌う奴らは、処理するかもだけど……鋼岩種は肉体の強さが取り柄の種だ。三メートルを超える巨体は岩石や鉱石で出来てて、彼らには雄や雌といった概念はないらしい。どうやって繁殖してるかわからないが、上に行くほどに寿命なんて有ってないような物になるらしいし、岩とかなら寿命そのものがなくてもおかしくない気もする。

 そんな彼らが人種の死体を気にするだろうか? 気にしそうもない。中まで頑強なのかは知らないが、人種程度から流行る伝染病とかそもそも他の種には移りそうもないっていうか……

 

「魔物を使ったのかな? さっきのワイバーンみたいに……」


 私は慎重にそういったよ。有り得ることだ。だってさっきのワイバーンは明らかに組織だってた。あんなのは野生じゃない。訓練されてたのか、操られてたのかはわからないが、あれを使えばこの惨状に出来るとは思う。でもそれじゃあ……ここの人達は魔物たちに食い荒らされたって事に……骨も残らず?

 

『綺麗過ぎる』

『確かにそうだな。魔物ならもっと食い荒らす筈だ』


 なんてったって服一つ……靴一つ残ってないからね。血はあるけど……これは変だ。本当に殺されたの?

 

「ゼロ、周囲の地面に染みてる血の量を計算することは出来る?」

『お待ち下さい』


 プロト・ゼロは勝手に頭を動かして周囲を見回してる。そして結論だけいった。

 

『ここに居たはずの人達が全員死んだとするにしては、その量には達してないと判断します』

「つまりは生きてるってことだね?」

『肯定です。推測ですが』


 生きてる人達がいる。流石に全員生きてるなんて希望は持たない。そんな優しい世界じゃここはない。

 

「でも、ゼロの索敵に仲間が引っかからないなんて……あり得ない。生きてて、けどいなくて……ここは戦場で……それってつまり……」

『人質か……』

「……多分そうだと思う」


 もうそれしか考えられない。しかも多分狙いは私達。いや、より正確に言えばアンティカだろう。アンティカさえ潰せば、人種は大人しくなる。そう考えるのが普通だ。

 

『マスター、バイタル反応です』


 ゼロの突然の言葉に私は急いでレーダーを確認する。確かに弱々しい反応が一つ。今にも消えそうな奴がある。この範囲ならさっき一回やったときに引っかかってておかしくない。

 

(罠?)


 それが頭に浮かぶ。だって人質をとってるのなら……罠だって使っておかしくない。狙いはアンティカなんだ。

 

『どうした亜子? 報告を』

「バイタル反応があったの。けど……罠の可能性もある」

『よし、カタヤお前の出番だぞ』

『おい、僕が自身でいうのならいいけど、お前がそれ言うなよ!』


 確かに……と私は思った。この役目はカタヤさんだろうけど、自身で背負うのと、背負わされるのでは印象が変わるよね。けど、やーめた――なんて彼は言わないよ。

 

『では行かないのか?』

『いや、いくさ。僕のタイプ・ワンが最適だろう』

『ほら、同じじゃないか』

『ちっげっーの! やる気とかがな! とりあえず亜子、座標を頼む。ベールは援護だ』

『仕方ない』


 全く二人は本当に仲良しだなーとか思いながら私はゼロに頼んで座標を送って貰った。そしてカタヤさんは飛んでいった。そして少しして通信が届く。

 

『これを見てくれ』


 そう言って彼のモニターに表示されてる映像が転送されてきた。それをみて私は思わず「ひっ!?」と声を出す。だって……だってそれは……今まさに引きちぎられたかのような人の腕だったからだ。ピクピクとうごめく指……流れ出る血はまだ鮮明に赤かった。そしてそんな腕や足が、転々と現れて道を示してた。死が私達を手招きしてるようだと思った。

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