Σ14
あれから三日が経った。私は今、アンティカの中にいる。つまりはそう、絶賛戦闘に向かってる途中だ。短い休暇だった。これか……これがブラック企業ってやつか……そもそも企業でも無いけどね! 国だからね。私一人が駄々こねたったどうにもならないのだ。それに、そんな事したらこっちが危うくなるだけだ。この国が無くなると、人種はバラバラになり、それこそ原始の生活に戻るか、他種族の奴隷におちるかしかない。
そうなるともう、帰る道を探すなんて場合じゃなくなる。日々生きるだけで年月は過ぎてく事だろう。この国を人種を守って、そして心置きなく帰る……それが一番なのだ。だからまあ、今は忠実に従ってよう。軍人だしね。
『前方に熱源多数。注意してください』
通信機からそんな声が聞こえた。私達は一旦アンティカを止める。そして前方の映像を拡大する。確かにいる。何がが大量に……あれは……
『ワイバーンの群れだ!』
『確認しました。数はおよそ三百です』
「三百!?」
私は映像に表示されてるワイバーンとおぼしぎ数を数えてみる。うん……動き回ってるから無理だわこれ。確かに多いけどさ……三百って数的に可笑しいでしょ?
そもそもワイバーンって何?
『ワイバーン――劣竜種。知能が低く、マナも竜に比べれば劣る。上位竜が腕と翼をそれぞれ持ってるのに対してワイバーンは翼自体が腕となってる事が多い。種と言う括りではなくモンスターである』
「ありがとうゼロ」
『いえいえ、マスターの足りない頭を補助するのも私の役目なので』
やばい……なんかすでに凹みそう。やっぱり変な機能なんてつけなくてよかったんじゃない? 昨日ラーゼの奴に領に呼ばれたから言ってみたら、絶対に凄いからってこの装置の事話された。なんかネジマキ博士と共に遠隔パペットなる殺戮兵器を開発する過程で、お世話メイドももっと高機能にしたいとかで所謂人工知能的な事もやってたらしい。
「ある程度出来たから乗せてみて感想聞かせてよ」
とかなんとか軽い感じにアンティカに人工知能は組み込まれた。助手の人達、私が今日出発するまで作業やってたようだったけどね。お疲れ様です。名前はなかったから簡易的に『ゼロ』と私は呼ぶことにした。ゼロと共に私の左手には時計の様なデバイスが増えた。これでアンティカと離れてもゼロとは対話出来るのだ。しかもバイタルとかも計っててくれてるらしいので、私が何処かでピンチに陥ったらゼロの意志でアンティカが動き、私を助けに来てくれる……筈だ。
実際そこは実験してないからわかんないんだけどね。アンティカはパイロット以外では動かせないとか聞いてるけど、アンティカ自身が動かすのであれば動くのかな? てかこの人工知能も後付だから、これがプロト・ゼロの意志とは思えないけどね。この装置でプロト・ゼロのマナの意志でも読み取って発言してくれるのなら、それはプロト・ゼロの意志と呼べるかもしれない。
けど、そういうのなのかは分からない。そもそも向こうでも人工知能なんて聞いた事があるだけで、中身なんて分かってなかったしね。まあでも私はこれをゼロと思ってる。色々と区別するのは面倒だからね。
私は無機質な機械音に向かって言葉を発する。
「――で、あれとやって勝てるの?」
『勝率は八十八% 問題ありません』
「なんだ雑魚じゃん」
劣竜種とかいうからビビっちゃったよ。やっぱり劣等種か。
『ただし、ワイバーンの相手によってロスする時間で、目的地への到達時間にも遅れが生じます。計算ではおおよそ、一時間と二十分です』
不味いじゃん! こんなの相手にしてらんないよ! 一時間も遅れたんじゃ、勝敗が決してしまう。てか既に決してるかもしれない。でも一人でも多くの兵士を生かす為には私達が少しでも早く現場に到達しなくちゃいけない……そんなに遅れたんじゃ全滅……なんて事も……
『提案、強行突破が得策かと。こちらのスピードの方が速いので振り切れます』
「カタヤさん、聞こえましたか?」
『ああ、あんなのに構ってはられない。スピードを上げるぞ! 亜子はなんとしてでもついてこい!』
「はい!!」
その言葉の直後に二機のアンティカが一気にスピードを上げた。一気に開いた距離を見て私もブーストを駆ける。その瞬間、身体がシートに押し付けられる。内臓が飛び出ちゃいそうな感じだ。これ……苦手なんだよね。
『マスター、私が補助します。画面上の軌跡に沿って飛んでください』
そんな声が聴こえると共に画面には赤い軌跡が表示された。アレかな? カーナビみたいなものかな? とりあえずこれを見て必死にアンティカを操縦する。するとあれ? っと思った。
(私……カタヤさん達についてけてる)
いつもブーストの訓練では、直ぐに引き離されて、見失ってしまってた。けど今はどうだ? 私、ピッタリと二人の後についていけてる。きっとナビだけを追って後は操作に集中してるのが良いんだろう。本当なら、前の二人を見て、今度はどっちに行くのかとか、そんな進路を予測したりしないといけない。でもそれは全部ゼロがやってくれてる。
そう、やってくれてるみたい。だって適当に進路を出すだけじゃ、こんな事出来る分けない。
「ゼロ、今はじめて凄いって思った!」
『悪口ですか?』
「褒めてんの!」
このひねくれた性格はなんなの? ラーゼの影響か? ところどころ小馬鹿にしてくれるしね。
『このくらい当然です。マスター、私達は繋がってるのですよ』
「繋がってる?」
『マスターのキレイな脳みそにも刻める様に言うのなら――すみません避けてください』
「ちょっ!?」
いきなり横からワイバーンが出てきた。いやいや、振り切ってた筈では? 私は二人の進路から外れてしまった。いや……そうじゃない? 二人の周りにもワイバーンが続々と集まってる。こっちに向かおうとしてる二機を上手く邪魔しつつ、三機を孤立させてる様に見える。
「ねえゼロ……確か知能低いって言ってたわよね?」
『その筈ですが……どうやら入れられた情報が古いものだったようです。ソフトウェアの更新を要望しときます』
「それって今意味なくない?」
『生きて帰れれば出来ますよ』
三百の内、多分百体ずつを相手にしないと行けないってことだよねこれ……戦闘タイプの二機はいい。けど私のゼロは支援型なんですけど!! 晴天の大空の只中で、厳しい戦いが始まった。