Σ13
「ええー! それ本当?」
私は自身のベッドに腰掛けてふんわりしたネグリジェに身を包んだキララからそんな事を言われてた。私は床に直置きしたクッションにお尻を乗せて、更にもう一つのクッションを強く抱きしめて顔を埋める。
「やーめーてーよー! あれはノーカンなの! 無いことにするんだから!」
「でも案外満更でも?」
「ないから! あんな甲斐性無しはありえないから!」
私達はパジャマパーティーをしてる。この部屋には今、私とキララ、そしてティアラ様にアナハ様がいる。そんな中でこんな話をすることになるなんて……いや女子がこれだけ集まったらこんな話になっちゃうのは仕方ないよね。戦場で大変だった私の為の会の筈なのに、一番ダメージ受けてるんだけど!
「あの……でも……キスはされたのですよね?」
「それに……プロポーズも」
「二人も蒸し返さないでよ!」
クッションを顔に押し付けてヤーヤーする私。テーブルに置いたお菓子をかじりながら二人も興味津々みたい。ティアラ様はキスとか言いながらキララの方見てた。この人所謂百合だからね。
「ど、どんな感じでしたの? やっぱり殿方の唇とかは硬いのでしょうか?」
「いや……普通にやわっこかったけど……」
「女性よりもでしょうか?」
「それは……わかんないけど……」
私は女の子とキスしたことないからね。キスしたいとも思わない……し。一瞬ラーゼの奴が思い浮かんだ。そういえば私、ラーゼとキスした事あったや。そんな私の反応にあざとく百合様ことティアラ様は気付く。
「むむむ……同士の匂いを感じますわ」
「え? そうなの亜子?」
「なるほど……だから男にプロポーズなんて……されたくない……と」
なんか私にあらぬ疑惑が勃発してるんですけど!? 違うから! 私はノーマルですから!
「違うの! あれは気の迷いなの! 最初にラーゼに会ったときね……その……キスされたの」
「ら……ラーゼ様とキス!? どうでしたの!? どうでしたの!?」
ちょっとティアラ様食いつきすぎでしょ! アイツ多分かわいい女の子に頼まれたら案外簡単にやらせてくれると思うよ。
「どうって言われても……あんまり覚えてない」
「なんでですか!! ラーゼ様ですよ! 人種の何よりも尊い至宝と言われる方のキスですよ!」
この一年でなんかラーゼの奴はそんな風に呼ばれる様になってた。急成長したファイラル領の領主で、ライザップや他にもこの一年で領地を拡大しまくってるからね。この国でも端っこなのを良いことに、領地拡大を進めてるんだ。そしてそんな進撃で連戦連勝してる。アンティカを使わずに勝利を納めてるのはアイツの領軍くらいだ。
あの容姿で……更に治める領地は急拡大に急成長してる。まあ……納得は出来るよ。至宝ね。容姿だけでもその価値はあると思うけど、能力でもそれを証明してる形なってる。
「そんなこと言ったって……あの時はパニクってたし」
「そんなぁー。あの方の唇こそ想像出来ませんわ。きっと想像を絶する柔らかさなのでしょうね」
うーん、よく覚えてないけど、たしかにそんな気はする。
「今度、領に帰るときに一緒に来ればいいですよ。歓迎します。ラーゼの奴なら、ティアラ様にキスしてくれますよ。あいつ可愛い子大好きだから」
「そんな……けど、ラーゼ様にキスされても心はキララ様に捧げてますからね! 浮気ではないですよ」
キララの言葉に返すティアラ様は鼻息荒くしてる。乙女がそんなフーフーしちゃ駄目でしょ。
「それで……百合じゃない亜子はプロポーズを受けないん……だ?」
「当たり前ですアナハ様。そもそも戻ってくるかもわからないし……」
現実的には戻ってこない可能性が高い。まあ戦場ではないかもだけど、偵察部隊が行くって事は何かの種族が居るはずで……何があってもおかしくない。
「フォールンでしたっけ? そこには確かウンディーネがいる筈です。彼らは海を縄張りしてる種ですからね。戦いにくい相手です」
「ウンディーネはそこまで優先度高くなかった気がするけど……」
なんてったって生息域が被ってないからね。でもだからって奴らが友好的かっていうとそうでもない。ウンディーネは案外好戦的だ。しかも海を使うからヒット・アンド・アウェイを繰り返す嫌な奴ら。でもやっぱり今、仕掛けるべき相手でも無い気はする。
「海には……太古の遺産があると言われてますわ」
「なるほど、アンティカみたいな何かがあると上層部は見てるわけですね」
ティアラ様の言葉にキララが続いた。確かにそれを考えると海を取るのは重要かもしれない。それかもしかしたらウンディーネの国自体になにかあると、掴んだとか? だからこそ先行部隊を放った?
「海の中じゃ……ウンディーネには絶対に勝てないよね」
「心配……なの?」
「誰があんなヤツ」
アナハ様のそんな言葉に私はプイッとそういった。けど、三人はニヤニヤしてる。私達はこんな事を夜遅くまで語り合って楽しい一時を過ごした。