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「うおおおおおおおおお!!」
私の後に続く人達が一心不乱にそんな声と共に飛び出てくる。ちょっとバレるから! とか思ったけど、大勢の人達の駆け足の音は消せないし、しょうがない。そう思ってると、前方の建物から光が見えた。多分アレが強力な攻撃をしてきてた奴なんだろう。大砲? 見たいな物が見える。
「散開!!」
私は真っ先に気付いたからそう告げる。けど、それは必要なかったかも。だって迫る炎弾に向かって後方から銃声が響いたからだ。それが三回は響く。そして三回目で迫ってた大きな炎弾は弾け砕かれた。
その光景に私達は一瞬あっけに取られる。けど後方から走れ! の声が響く。私達はその声で建物へと張り付いた。流石にここまでくれば砲撃はできないだろう。カタヤさんの剣戟の音は聞こえるけど、姿は見えない。カタヤさんがアレを壊してないって事は、アレの他に厄介な敵が居るって事だろう。戦闘には向かない種族と聞いてるけど、例外とは居るものだ。
「周りの建物を確認しましたが、誰も居ないようです」
そんな報告を私は受ける。なんか私が今部隊でトップ的な物になってませんか? 確かに部隊的に考えればそうかもしれない。私は階級的には下っ端だけど、特務であるフェアリー部隊は軍の中でも特殊な位置にいる。それこそ、普通の兵士達にとっては雲の上の部隊。そんな所に私が所属してるんだから、他の人達が私に報告してくるのも当然か。
けどそれならベールさんに……と思うんだけど、あの人退路を確保するために動いてないからなー。確かに指揮官研修も受けたけどさ……その時は大体同年代の皆が相手だった。けど今ここにいる人たちは、ほぼ全員年上なんですけど……やりづらい。けどそんな事を言ってる場合ではないか。
「死体も無いって事は消えるタイプなのかな? 種族によってはマナへと帰る種もあると聞きますし。とりあえず、あそこを目指しましょう」
私は一番大きな塔を見る。古びた石造りの塔がこの円形の街の中心に聳えてる。あれから砲撃は来た。多分あそこに集まってるんだろう。行くしか無い。あそこに。私達は不気味に静まり返った街を走る。時々軒先から見える中の様子は普段の生活がそのまま残ってるようだった。食器があって料理が置いてあって……服が散らかってて……きっと人種の突然の侵攻に慌てて対応したのが見て取れた。
「私達が……侵略者なんだ」
そう思うと心が痛む。なんで私は……こんな事をやってるんだろう。帰りたいから、ミリアを助けたいから……けどそれで平和に暮らしてた人達を蹂躙する言い訳になるのだろうか? 沢山……沢山死んだ。私は直接は手を下してないけど、間接的に殺したことに変わりはない。けどこっちもいっぱいいっぱい死んでる。それが戦争で、それが戦いで……私の目的には避けては通れない事で……戦争は私だけの意思じゃなくて……正義なんて、どこにも無いって私はこの歳で知ったよ。
ラーゼの奴が羨ましい。アイツはきっと悩まない。アイツは自身の中に確かな正義を持ってるから。そしてそれを真っ直ぐに貫きとおして邪魔な奴は否定と排除は当然。アイツほどの見た目なら……私も『可愛いは正義』で貫き通せるのかな? いや無理かな……私そんな図々しくないし。
矛盾と疑問は晴れないけど、止まることも許され無い。なぜなら私には時間が無いからだ。