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Σ4

 階段を降りてくと、小さかった光が徐々に大きくなっていった。そしてそんな光の先に先行してた数人が盾を構えながら出てく。大体虫の息だと言っても、何か罠がある可能性はあるからね。そしてそんな懸念は現実になった。光の中に出てった瞬間大きな爆発音と共に、先行してた人達が階段まで吹き飛んできた。そして一緒に爆煙も階段まで昇ってくる。

 

 視界が一瞬でなくなった。これって不味くない? そんな事を思ったけど、別段追撃が来る……なんて事はなかった。むこうもそんな余裕は無いんだろう。とりあえず吹き飛んで来た人達の傷の手当をしないと。私はラーゼから貰ったピアスのお陰で、普通以上に魔法が使える。だからここで魔力を多少消費しても問題はない。瞬時に回復する程の回復薬は高価だからね。そんなに支給されて無いはずだ。

 

「大丈夫ですか? 今直します!」

「自分よりもグバの奴を……アイツが一番前に居たんだ……」


 自身もひどい火傷をおってるというのに、そのグバって人の事を心配するなんて……けど私はその願いを聞いて上げる事ができない。だって……その人は多分……階段の一番下で黒焦げになってる人……だと思う。あんまり見たくないけど……チラッと見ただけでももう息をしてないと分る。あの状態から治す事は私には出来ない。それこそキララくらいでないと無理だ。

 

 今のキララなら反魂に近しい魔法が使える。つまりは死者蘇生だ。けど、近しいんであって実際に死者蘇生の魔法を会得した訳じゃない。キララは自身の才能を回復系統に全振りした。そもそもキララにはペルと言う、そんじょそこらの人種では歯が立たない最強の護衛が居るから、攻撃はあえて捨てたんだ。明確な役割分担。それによって……てかもともとキララは多分、そっち系の方が相性良かった。

 

 メキメキ回復系統の魔法を会得してって、そしてラーゼから無限とも言える魔力供給を自身の意志で制御できるキララだからこそ、力技で死者蘇生まで作り上げた。今や、キララは回復魔法では人種で最高峰にいるだろう。まあだからこそ、色々と周りがきな臭くも成ってきてるけどね。戦争に利用しようと意見してる者も居ると聞く。

 

 私は反対してた側の人間だ。キララに戦場なんてって……けど、戦場にきて何よりも思うのは、キララがここに居ればって事だ。死んでいく仲間達が余りに多い。しかも苦しみながら死んでく人達が多い。一撃のもとなら諦めもつくよ。けど、回復薬の量も回復魔法が使える部隊も……圧倒的に少ない。軍から支給される回復薬は階級にも寄るんだろうけど、どんな怪我でも一かけで治る薬が一つに、あと中回復程度の奴が三つ……それだけだ。

 あとは小さな救急セットでどうにかしろのスタンス。

 

 せめて小隊規模に一人は医療スタッフか、治癒魔術師を居れるべき……けど、人種は皆が魔法を使える訳じゃない。平民にはほとんどいないし、魔法を使えても、それなりの魔法を操れるレベルの魔術師となると、更に少なくなる。だからこそ、技術に頼ってるわけだけどさ……回復系統の事はなかなかに捗ってないのが現状だ。ネジマキ博士が、そっち系では無いってのもある。

 あの人、兵器ばっかり開発してるから……いや助かってるよ。この一年でアトラスもかなり性能アップしたし……けど、それでもまだまだ全ての兵士に普及させらる段階じゃない。

 

 戦死者の数を減らすには、早急な医療技術の発展が必要だ。それが一朝一夕に出来ないのは私にだってわかる。でも、以前には居たらしい。ネジマキ博士と双璧を成す存在が。その人は兵器とかよりも、それこそ医療とか回復・再生技術を専門にしてたらしい。今、軍で使ってる薬とかレーションとかもその人の発明品だとか。けどその人は今はいない。

 ある日突然姿を消したらしい。その人がいれば、もっと死なずに済んだ人がいたかもしれない。いくら人種は数が多いからって、こんな連戦で死者を大量に出してたら、いくらなんでも増える数よりも減る数の方が多くなるよ。

 

「グバは……アイツは……」

「ごめんなさい。けど、貴方は助けるから!」


 私は彼に魔法を掛ける。光に包まれながら、彼は腕で顔を抑えて泣いている。そんな状況のなか、再び爆音が響く。そして爆煙が階段を包む。するとパラパラと破片が落ちてきた。

 

「これって……」

「奴らはどうやら僕達を生き埋めにするつもりらしい」

「は、早く撤退を!」


 一人の兵士が慌てたようにしてそう言うよ。けどそれに対して、カタヤさんは首を横に振るう。

 

「撤退はしない。ここを落としてある物を確保するのが僕達の目的だからな。ベール、頼めるか?」

「まあ、お前の脳天を後ろから撃ち抜かないように気をつけてやるよ」

「信頼してるよ」


 そう言ってベールさんは自身の愛銃を構える。一般の兵士が持つ銃よりも随分と長くて太ましい銃だ。しかも連続で撃てなくて、撃つ度に一回一回銃身の横にあるバーを引っ張って薬莢を排出しないといけない奴。まあその分、その弾丸もデカくて威力も高い特別製だけど。この世界の銃は別に火薬で打ち出してる訳じゃない。普通の兵士たちが持ってるのはマガジンに加工された魔光石を入れる仕様になってて、引き金を引くと魔法で撃ち出すような玉がでる。

 

 威力は、命を奪える程にはあるけど、僅かな影響を受けやすいって欠点がある。最たる例は風だね。強風だと結構ずれる。それに魔力だから、マナに強い相手には効きにくかったり、魔法と同様に障壁で弾かれたりする。当たったとしても、ものすごく相手が悪かったら、その弾丸を吸収される恐れもある。それは流石にそうそう無いけど、人種である私達はマナへの意志の伝達能力が弱いらしい。

 だからこそ、使える魔法も他の種に比べて威力も効果も落ちる。普通の銃は魔光石に攻撃の意思を予め組み込んで、それを撃ち出す事に特化させてるから殺傷能力が出てるに過ぎない。

 

 だから魔力の操作に長けた種なら、その意思を改変して、純なマナとして取り込めるらしい。理論上は。そういう例はまだ無いみたいだけどね。それら諸々を克服する為に開発されたのがベールさんが使ってる『特イ・破型三式』と呼ばれる銃だ。向こうの世界で言う所のスナイパー的な銃と思ってもらえれば問題ない。まあ、弾丸によって色々と特性を変えれるんだけどね。

 それが『特イ・破型三式』の最大の特徴でもある。そんな銃にベールさんは弾丸を組み込んで銃身の上についてる透明な球面を覗く。あれがこの世界でのスコープだ。僅かな魔力で操作できる、魔光石を加工して作られた球面体スコープである。原理は知らない。多分魔法で都合よくズームしてるんでしょう。

 

「大丈夫。僕が先行する。皆は僕が合図したら、一斉に出てきて欲しい」


 退けないと聞いて恐れてた皆に、優しくそういうカタヤさん。彼の立場なら、もっと高圧的に命令だって出来る。けどそれを彼はやらない。そういう人ではないから。

 

「アトラス、起動」


 その言葉と共に、彼が来てるスーツが変化する。白いスーツで全身を覆ってたけど、今はそれに金色が加わり、色々と肌が露出してる。一年前は黒しか選択肢なかったスーツも私達三人用にそれぞれ色がついたんだ。私は基本は赤のスーツ。これ……目立ち過ぎて恥ずかしいんだけどね。それにアトラス時には、白色が加わる。ベールさんは基本が青で、アトラス時にはオレンジが入る。

 

 そして昔とは違って、アトラス時に肩甲骨のところがボコッと盛り上がってる。それはまあ、後々わかるでしょう。準備も完了したのだろう。私に向かって行ってくる――と言うカタヤさん。なぜにそれを私に言うのか……心配気な顔で行かないでっていえばいいの? 実際心配はしてる。彼だって不死身じゃない。けど同時に信頼もしてるんだ。

 だから私はこういうよ。

 

「いってらっしゃい」

「ああ!」


 二人は階下に降りていく。先にベールさんが立ち止まり、射撃態勢に入る。カタヤさんはそのまま降りる過程で一気に走って残りを飛び越えた。階下に着地した瞬間に肩甲骨の盛り上がってた部分が開き、青い光を収束して一気に前方に加速した。直後再び爆発音が響く。けど今度は爆煙は入ってこない。きっとカタヤさんが切りさったんだろう。


 その後はベールさんが射撃する音がとても煩く響いた。はっきり言って鼓膜破れそう。そしてベールさんが私にアイコンタクトを送る。合図だ。てかこれ私が先頭って事? でも迷ってる暇はない。回復出来る人はしたし……私は自分愛用の銃を胸の傍のホルスターから引き抜いて素早く階下に降りる。そして光が射し込む穴の傍に身体をつけて、顔を僅かに出して少しだけ様子を伺う。

 けど逆光のせいでよくみえない。けど戦闘音は聞こえる。今なら敵の注意はカタヤさんに向いてるはずだ。覚悟を決めろ私! 私に皆さんに銃を持ってない方の手で三・二・一――と合図を送って光の中に飛び出した。

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