Σ2
「はぁはぁ……」
暑い……ヘルメット内がモワモワする。ピッチリとしたボディスーツは通気性抜群何だけど、ヘルメットはどうしても息苦しくなっちゃうよ。それに実際は、暑さだけじゃない。私の目の前で……いや、正確にはモニター越しに聞こえる映像と通信……それが私に汗をかかせてる。
『アンティカが来てくれたぞ!』
『おお! これでやっと……ぎゃあああああ!』
『うああああああああ!!!』
色んな所から、そんな通信が入っては消えていく。下は鬱蒼とした森が生い茂ってる。ここは森の民と言われる緑人が支配する地域らしい。そこに侵略を開始した人種だけど、ご覧の有様である。ただでさえ弱い人種が、他の種の地域に赴いて戦闘となると不利は否めない。それでも装備は万全にしてる筈だけど……やっぱり人種は弱い。
『亜子、大丈夫か?』
「大丈夫……です。休んでなんていられないし……早くいかないと全滅しちゃうんでしょ?」
先行してた部隊は既に半壊状態だ。皆身体に位置を知らせるビーコンの様な物をつけてるから位置はわかる。でもそれの反応で、生きてるか死んでるかもわかるわけで……聞いてた部隊の数に比べて、既にかなり少ない。このビーコンは人種の僅かな魔力でも駆動する様になってて、肌身離さず身につける事で位置とバイタルを後方部隊に伝えてくれる。
だからもしかしたらこのビーコンが反応してなくても生きてる人はいるかもしれない。けど腕につけるブレスレット形状をしてるわけで……腕を無くさないと、反応が消える事なんてそうそうない。つまりはやっぱりビーコンが反応しなくなってたら死んでる可能性が圧倒的に高い。
『そうだな。僕達が行かないと全滅だ。けど、僕達ならこの状況を覆せる。その役目を僕達フェアリーは担ってるんだ!』
『まあ、そう気負うな。お前は俺達の後方支援だ。真っ先に死ぬとしたらカタヤだからな』
『ベールお前な……』
『ふっ、さっさと突っ込め脳筋。お前が切り損ねた敵は俺が撃ち抜く』
『毎回毎回、それで俺よりも討伐数稼ぎやがって……』
『切り漏らすお前が悪い』
下の惨状とは違って、こっちはこんな感じだった。けど多分私の緊張をほぐそうと軽口を叩いてくれてるんだろう。そんな二人の会話で少し気持ちが軽くなった私は敵の反応を探る。そもそもさっきからこっちの兵士が四散してるのはわかるけど、敵の反応はまったくない。けど皆怯えて逃げてるんだ。肉眼で確認できる距離にいるのなら、このプロト・ゼロが見逃すはずは無いんだけど……多分これは緑人の特性とこの森の特殊性のせいだろう。
出撃前に一応資料には目を通した。
緑人はそこまで強力な種ではない。けど、その森を自身の命と結びつけて、長命を保つんだとか。森事態が彼らであり、彼ら事態が森である――とか結構わけわからない事が書いてあった。どうやら彼らは森を自由に操作出来るみたいだ。そして木々を通して移動も出来るとか? だからその姿が見えるのは攻撃の時だけとか。でも攻撃自体は森を使っても出来る訳で、いうなれば彼らが出張ってくるのはトドメの一撃だけらしい。しかも特殊な花粉とか撒いてるっぽくて、極端にセンサーの感度が悪くなってる。
やってくれるね。てか森と一心同体なら、森事焼き払えば? とか思うかも知れないが、それでは駄目らしい。奴らが命を結んだ森はどんな事があっても枯れず燃えない。例え切っても直ぐに生えるらしい。実際倒すのは無理なんだとか……そう言われ続けてきた奴らだ。
でも私たちは今ここに居る。出兵をお偉方が決めたって事は、緑人を倒す算段が出来たって事。その装備を私達は持ってる。そしてこの装備、これからの戦いでもきっと役にたってくれる筈。その試金石が緑人というわけだ。
『目標地点まで後五秒。特務フェアリー、作戦開始!』
通信から聞こえるそんな声に私達は『了解!』と返す。私はその場で静止して両肩と背中に装備したパレットを大きく展開。そこから薄ピンクの粒子を散布する。カタヤさんは一気に森に突っ込んだ。そしてベールさんの青の機体は私よりも高くに位置取り、その全砲門を開放する。
「ごめんなさい。これも命令だから」
そんな言い訳を口にする私のモニターに散布濃度百%の文字が踊る。それを伝えると同時に眼下では金色の光が天に一筋の光を照らす。そして森全体が唸った。すると森全体から半透明な生物が出てきて、こちらに手を伸ばす。それは緑人の集合体なのか、かなりでかい。プロト・ゼロに迫る半透明な手。けどその手が私を捕らえる事はなかった。
フルバーストされたセカンドの射撃がその生物を撃ち抜いたからだ。そして私達の反撃の狼煙と共に、勢いを取り戻した人種の軍は緑人を討ち滅した。