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β45

「アトラスですか……それでも人では届き得ない領域があると、教えて差し上げますよ」


 それにカタヤさんは言葉を返さない。けど行動でもって示す気だ。その刀を鞘に治めなおして、一気にサーテラス様との距離をつめる。そして一歩手前で一気に刀を鞘から抜き去る。これは領地で見せてもらった事がある。たしか抜刀術とかいうカタヤさんの最高速度の攻撃。けど見えてしまうだ。多分、さっきまでのおかしな速度の攻防をみてたから――いや見えてなかったけど、必死に追ってたから動体視力が鍛えられたのかも知れない。

 

 けどさ、私に見える物が彼女に見えてないわけがないんだ。完全に刃と同調する手。受け止められる。サーテラス様の手が刃に触れるその時、カタヤさんは無理矢理剣筋を替えて彼女の首筋に刃を突き立てる。

 

「人をあまり舐めないことだ」

「流石ですわカタヤ様。けど貴女は甘い。寸止めなんて甘すぎですわ。ですから、奪われるのです。なにもかも、大切な物全部」


 その瞬間、サーテラス様は首筋に突きつけられるた刀を握ってカタヤさんを引っ張った。身体のバランスが崩れた所でサーテラス様は素早く動いて顔を近づける。そして――

 

 チュッ

 

 ――とキスしてた。

 

「うふふ、あははははは! やってしまいましたわ。やってしまいましたわ! 私の初めて、捧げてしまいましたわ。これで私達夫婦ですわね。前々からお慕い申しておりましたの」


 なにやら一人でめっちゃはしゃいでるサーテラス様。その姿は年相応の子供にみえる。姿はアレだけど……キスか――って何やって来れてるの!? わたしだってまだしてないのに!

 

「そうか……でも、君とは夫婦になれない」

「そうですの? 私し綺麗じゃありません?」


 冷静に返すカタヤさん。なんだかキスのショックなんて無いみたい。私は頭から火が出そうなんですけど……他人のを見てこれだよ。自分でやるとなったら……それを想像するだけで目がまわるよ。

 

「君は綺麗だよ。けど、それでも駄目だ。それに君は人に戻るつもりはあるのか?」

「それこそ、些細なことだと思いませんこと? 私が人種を強くして差し上げます。それが出来ますわ。この身体を使って、この力を宿す子を沢山生みましょう。そしたらもう人種は最弱の種などと罵られることもないでしょう。素晴らしいではないですか」

「それはもう人種ではない!」


 そう言ってカタヤさんは刀を引き抜く。その時、サーテラス様の指を切り落としたけど、彼女は別段何も反応しなかった。私は思わず目を背向けたよ。

 

「いいではないですか。高みに行けるのならば」


 彼女の手が黒いモヤで包まれると、指が生えてた。確かに何が人種なのか……どうアレば人種なのか……実際そこら辺は曖昧だと思う。一応サーテラス様は人種だった訳で、そのサーテラス様から生まれれば人種と定義していいの? けど流石に角や羽が生えてたら、そうとは呼べなかも……でも彼女の提案を受け入れる層は一定数はいそうだ。

 カタヤさんはすぐに否定したけど、この世界で人種は弱い。見下されてる。数だけ多い、どこでも繁殖出来る虫みたいな存在だと……そう思われてる。それに憤ってる人達はやっぱりいて……力が手に入るのならって受け入れる人達はきっといる。こんなすっぱりと言える人はそうそういないだろう。私だって自分が人種ということを呪った事……何度もある。

 

「人種だって高みにいけるさ。僕は人種は神に見放された種などと思ってない。僕達には違う可能性が与えられてるんだ」

「なら、その可能性……私がこの力でへし折って差し上げます。その可能性とやらが、力の前で無力だと教えて差し上げますよ。たどり着いたからわかる……そんな事もありますのよ。そして絶望のなか、貴方の種をいただきますわ」


 種って何? よくわからない。

 

「よくわからないって顔してますねキララさん。大丈夫、すぐにわかりますわ。貴女の目の前でしてあげます。ああ……ゾクゾクしますわ」


 なになに? なんなの? けどなんか、絶対によくないことだってのはわかった。再びカタヤさんは動く。けど今度はサーテラス様も同時に拳を放ってた。カタヤさんの攻撃なんて無視して自身の攻撃を通す気だ。けどその拳はペルが防ぐ。そして僅かな傷がサーテラス様に刻まれる。一対一なんてする必要はない。

 

「ペル……カタヤさん」


 魔法を撃とうにも、近いから危ない。それにもともと私は攻撃魔法は得意ではない。癒やす系は得意なんだけどね。そう思ってると亜子が来た。

 

「今のうちにアナハを治して。私も加勢する」

「亜子……なんかエロくない?」


 亜子もそのスーツをアトラス形態に変えてる。けどそのせいで色々と際どくなってた。太腿の内側とか脇腹とヘソとか……それにお胸がギュムッと寄せられてて谷間が顕になってる。大きく成ってない? 

 

「だからこれは使いたくなかったのに……アレ相手にはしょうがないのよ!」


 そういう亜子は恥ずかしそうにくねくねする。けどそれが更にエロいよ。亜子は二丁の銃をくるくるしつつ、ガシャンと構える。そしてベルトの所をピピッと操作すると、アトラスに光の筋が通る。

 

「頼んだからね」


 私は頷いて亜子を見送った。

次回は二十一時にあげます。

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