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#14

 雨の降りしきる渓谷に響き渡る甲高い音。交差した私とスズリ達。雨だけが打ち付ける時が数秒続き、ドシャっという音が響いた。え? どちらが倒れたかって? そんなの勿論決まってる。

 

「ふふ、あははははははははははは!」


 そう笑うのは勿論私。世界の美の象徴であり、ドラゴンの力を行使できる存在ラーゼ様である。全くどうやったら狼風情が勝てると勘違いしちゃったのか……身の程を知れと言いたいね。

 

「あっ……」


 そんな高笑いを上げてたら服が荷物共々おちた。再び真っ裸だよ。けど、ここに居るのは狼ともの○け姫だしまあいいか。私は荷物を抱くように持って一応大事な部分は隠す。お尻は丸見えだけど仕方ない。形がいいぷりっぷりのお尻だから恥ずかしくはないはず。

 

「ベルグ! ベルグ!!」


 スズリはベルグの背から降りて彼を揺すってる。そんなスズリにベルグはなんとか目を開いて答える。

 

「大丈夫だ。力を使いすぎただけだからな」


 どうやら私が力をぶっ放したときと同じような状態らしい。まあこっちからは何もしてないし、死にはしないよね。けどその牙は見事にボロボロ。してやったりだ。

 私は近づいて言ってやる。

 

「あらあら随分可愛いワンちゃんになっちゃったねーくすくす」

「貴様……」

「あれー勝負に負けたのはそっちなのにまだ何かする気なの? 狼の誇りなんてそんなものかー」


 これ見よがしに厭味ったらしく言ってやる。ふふ、こいつらは私の力をわかってない。ほぼ防御しか出来ないからこその勝利。でもこいつらは私がとんでもない力を隠し持ってると思ってる筈。今の状況で私に逆らえばどうなるか……チラッと視線をスズリへと向ける。それに敏感に反応するベルグ。


「貴様、スズリに何かしようものなら……」


 ボロボロの癖に妙にデカイ殺気を放ってきやがる。そんなにスズリが大事なんだ。興味が出てきたよ。もの○け姫の正体を暴きたいかも。

 

「やめてベルグ。私だって戦士、逝くときは一緒よ」


 スズリの槍も私に当たって砕けてる。けど彼女も私へ殺気を向ける。噛み殺してやる……みたいな執念を感じる。やっぱり野生は駄目だね。怖い怖い。

 

「やめたほうがいいと思うけど?」

「うるさい! ベルグをこんなにした貴様は許さない!!」


 仕掛けてきたのはそっちなんですけど……しょうがない少し大人しくして貰おう。私は片手を前に――って片手で荷物抱えるのきついよ。早く終わらせよう。息を静かにして私は自身の中のゼルラグドーラの存在を強める。

 

「ひっ!?」


 スズリはバッと後方へ飛び退る。ベルグは動けないがその尻尾を股の間に隠してた。そして周囲の色んな気配が一斉に居なく成るのを感じる。やっぱり効果てきめんだね。そして再び両手で荷物を支える。

 

「さて……まだやる?」

「あっあぁ……す、すみませんでした」


 そういってスズリは額を地面に擦り付ける。土下座である。効果ありすぎたかな? まあいいや。これで面倒はなくなったでしょう。

 

「なんでここに来たか聞いていい? 私の事を追ってたわけ?」

「それは違います。霊峰が消え、黒の厄災が復活したので、山の異変に目を光らせてたんです。そしたらここから光が上がって、瞬く間に雨が……これは最近の異変の原因が居ると思い馳せ参じたのです」


 ふむふむ、なるほどね。そして私が寝てたと。その間に手を出さなかったのは何か罠があるかもと警戒してたようだ。一つ気になる事がある。

 

「ねえ、雨とか普通は降らせれないの? 魔法があるでしょ?」

「天候までも操れる魔法は国が抱える大魔導師クラスでないと使えないかと」


 へえー少なくとも私は大魔導師クラスではあると。一発しか撃てないからそれと同等とはいえないけど近いとは言えるよね。

 

「それに……」

「それに?」

「スズリ!!」


 いきなりベルグが唸った。それがなぜかは直ぐに分かったよ。私が向かってた方から何やらガチャガチャとした音が響いてくる。そして同じ鎧を着込んだ熊や狐や犬とかの頭した奴等が現れた。

 

「そこの者達! 大人しくして……貴様『白狼姫』か! 皆の者、武器を構えろ!!」


 え? え? 何事? 一気に一触即発の空気だよ。

 

「人種の娘? 何故に裸? それにその後ろにいるのは白狼? 怪我を負ってるのか……一体誰が?」


 そういいつつ、隊長っぽい熊が私を見て首を振る。多分私がやった? と思い、そんなわけ無いと否定したんだろう。これはある意味チャンスでは? こいつらに保護して貰えば楽に目的地までいけるじゃん! 

 

「たっ、助けて下さい! 私、この人達に襲われてるんです!!」


 全力で猫被ってそういった。ぬはははは! 完璧美少女の私の訴えは信じずには居られまい。後は涙ぐんで向こう側に走っていけば完璧。そう思って走ろうとしたら足元にバキュンときた。


「きゃあ!? 何するのよ!!」

「人種を助ける義理はない。大方使えなく捨てられた奴隷だろう。それにしてはやけに見栄えがいいが、今は白狼姫が優先だ。貴様は隅で大人しくしてろ。奴等を捕らえた後に奴隷市に戻してやる」


 あーこれはダメだ。人種ってだけで奴隷って……慈悲はないのか。どんだけ他の大陸でやらかしてるの? これはこの姿のまま都市や町へ行かないほうが良いかもしれない。しょうがないね……ここは逃げるか。都合が良いことに奴等の狙いはスズリとベルグのようだし、隙きをついて逃げようそうしよう。ジリジリと間合いを詰めて来る奴等。

 

「スズリ……お前だけでも逃げろ!!」


 そう言ってベルグが力を振り絞って暴れだす。奴等の包囲が崩れた! ありがとうベルグ。君の事は記憶の端の方で覚えておくよ。

 

「私も戦う! 最後まで一緒よベルグ!!」

「ダメだ行け!!」

「いや!!」


 そんなやり取りが聞こえて、ちらりと見るとベルグと目が合った。なにも言ってないのにわかってしまった。しょうがない武士の情けだ。てか貸し一つだかんね。私はスズリの傍に言って耳打ちする。

 

「このままじゃ全員お陀仏なのよ。生きてれば助けるチャンスがある。どうする、ここで二人共死ぬ?」

「それは……ベルグ……絶対に助けるから!!」


 そんな言葉を残して私たちは走り出す。ベルグはまあ死ぬだろうけど、本望だろう。私達を守るように動物兵士達の前に立つベルグ。その姿は中々に格好良かった。

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