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「えっと……サーテラス様? ですか?」
「ええ、勿論私です」
確認してみても、この目が信じられない。アレかな? 魔法かな? そうとしか思えない変化。だって一週間だよ? 一週間。それでこんなに体型が変わるんなら、そのダイエット方を公開するだけで一財産築けちゃうよ。それだけの変化が起きてる。
「キララ様ーー!!」
私が衝撃を受けてると、手を振って近づいてくるティアラ様が見えた。ティアラ様は多分だけど豚に気付いてない。近くまできて私の前に立つ豚を見ても、その目を据わらせたりしない。寧ろにこやかに猫被って「この方は?」とか言っちゃう始末。するとそんなティアラ様に豚の方から淑女の礼を述べる。
「お早うございますティアラ様。この様な姿に成ってしまいましたが、私サーテラスで御座います」
「うん?」
どうやらティアラ様はお耳が遠くなられたようだ。はしたないけど、お耳をかきかきしてもう一度「どなたですか?」とお聞き遊ばせた。
「サーテラス・テラントラス・ベルルミエールで御座います」
「…………」
声が出なくて口をパクパクしてらっしゃるティアラ様。美人が台無しな顔してますよ。私と豚を交互に見るティアラ様。言質はとってるけど、私もどうにも信じられないから、その縋る様な視線にどう返していいのやら分からない。
「本当に? あのサーテラス様なのですか?」
「そのサーテラスで間違い御座いません。皆様に御迷惑をおかけしてすみませんでした。これからは心入れ替えて貴族の名に恥じない言動を心がけて行きますわ。本当にごめんなさい」
そう言って深く頭を下げる豚……いや、流石にそれはもう失礼かな。ここまでやる人を豚呼ばわりはいけないよね。サーテラス嬢はどうやら心を入れ替えた様。どうにも信じられないけど、今彼女は私に向かって頭を下げてる。何よりもプライドが高かった彼女が頭を下げてるんだ。しかも下げ続けてる。これは私の中の彼女では信じられない程の事。
それが起きてる。死んでも平民なんかには頭を下げたりしないと思ってた人が、それをやってる。本当に彼女は変わったんだろう。何があったのかはわからないけど。
「えっと頭を上げてください。謝ってくだされるのなら良いんです。これからは仲良くしましょう」
私はそう言って彼女に手を差し伸べる。それにティアラ様はなにやらふくれっ面してるけど、敵なんてのは居ないほうが良いんだよ。私は楽しくて有意義な学園生活が送りたいんだ。
「ありがとう御座いますキララ様。こんな私を許してくださって。本当に貴女は聖女のようですわ」
「…………それは……どうも」
うん、やっぱりキモいななんか。瞳に涙を浮かべて微笑むサーテラス嬢はとても美しかった。ほんと美人になったから、その破壊力は抜群だ。周りに居た生徒達が何人か昇天してた。
そしてそんな邂逅と共に一日が過ぎると学園の話題はサーテラス嬢の事でいっぱいだった。寧ろそれしかないとさえ言えるフィーバーぶりだ。豚だった彼女が突如として美人になり、更には心入れ替えて誰彼構わず、その魅惑の笑顔を向けるんだ。口調も優しくなって穏やかに話す彼女の声は、深く身体に染みるように響く。多分もともとそういう声だったのだろうけど、前は威圧とか刺々しさが全面に出てたから、そんな印象は無かったんだろう。
けど今は違う。彼女の周りには取り巻きの二人だけではなく、沢山の生徒が集ってた。そしてそんな中で微笑む彼女を見て、私はズキンと心に何かが刺さった気がした。