#13
「なんなの? てかまだなんのよう?」
「こっちだから! それこっちの台詞だから! 君おかしいの?」
おかしいとは失礼な。私の用は既に済んだんだけど……だから通り過ぎようとしたのに何が不満なのか。そんな事を思ってるとどこからか太い声が聞こえきた。
「スズリ、もう殺して良いのではないか? こいつは容姿しかない中身空っぽな奴だぞ」
「おい、くそ畜生の分際で言ってくれるじゃない。あんたの牙なんかじゃ私に傷一つつけれないわよ」
どこ? なんてのはヤポだった。私は定番というのをわかってる女だ。あの子、スズリとか呼ばれた娘がもの○け姫なら喋ってるのはあの狼みたいなのに決まってる。そしてどうやらそれは当たってたようで狼がグルルと唸ってくる。
「子供の分際で口が回る奴だ。我等を見ても動じてないようだな。世界を知らないと見える。教えてやるぞ!」
グルルグルルと唸ってるくせに何故か言葉が聞こえる不思議。確かに私は世界を知らないようだ。こんなクソ生意気な狼がはべってるなんて許せない。どうやら相当な自信家のようだけど、その高い鼻をへし折ってあげようじゃない。
「それは楽しみ。その牙が飾りじゃない事を祈ってるわ」
「ちょっ!? なんでベルグに向かって普通に挑発出来るわけ? やっぱり君おかしいよ!?」
「煩いぞスズリ。奴は我が誇りを傷つけた。もう止まれぬわ!!」
「そっちこそ! 私はだいたい容姿だけだけど、獣風情に言われる筋合いはない!」
「あーもう! なんなのこの二人!? 君死ぬよ! ほんとベルグは強いからね!!」
ものの○姫ことスズリは中々に優しい人のようだ。私がぼんやりと知ってるもの○け姫とは違うね。確かにベルグと呼ばれてる狼は強そうだ。でもこっちが攻撃しなくて良いのなら私は負けない! ドラゴンに会ったことある私には狼なんて可愛いものよ! 絶望に染まるが良いわ。
「行くぞ!!」
その瞬間ベルグが消えた。それは比喩なんかじゃないよ。文字通りの意味で消えたんだ。正確に私には見えなかったってだけかもしれないが、見えない私には関係なかった。私の身体に何かがぶつかった音が聞こえて身体が吹っ飛んだ。折角来た道を盛大に戻る。しかも雨のせいでよく滑ってよく汚れる。けど……それだけだ。私はニヤリと口角を上げる。
「馬鹿な……」
驚愕するベルグの声。そのご自慢の牙、折れちゃったかな? 私はゆっくりと立ち上がり髪をかきあげる。
「残念、折れてないわね」
「貴様……一体何をした!?」
ベルグの牙は健在だった。けどその歯茎からは血がドバドバと出てた。白い毛を赤く染めてる。そしてベルグと共にスズリも驚愕に目を見開いてた。
「そんな……ベルグの牙が通らないなんて……つっ」
スズリの空気も元のピリピリとしたものに変わった。こいつらもう私を殺す気満々なんだけど……けどカラスと違って直接攻撃しか無いのなら、私は防御だけでなんとか……なんとかなる? なんかスズリの持つ槍が三又に開いて凶器部分が回転しだしたんですけど? 結構なハイテク武器だったのそれ? だだの槍かと思ってたからびっくりだよ。
そしてベルグの奴もその身に青い闘気をみなぎらせ始めた。
「ふぅ……所でなにか用があったんじゃないのかな?」
「それはもう詮無き事。危なき者には死を。それが我等の掟。君は子供だけど、もう無視できない存在。語るのなら命を賭して語り合いましょう」
ヤバイ……野生児の何かに触れたみたいだ。調子に乗ってましたすみません! って言ってももう聞く耳持ってないから無駄だよね。命を賭してとか言っちゃってるし……こうなったら自分の防御力を信じるしか無い。私は瞳を閉じて、更に身体の隅々に力を通す。体内ならまだ力を感じれるし多少は操れる。滞りなく体内を循環させるイメージ。それを少しでも淀みなくだ。
私はなんだって綺麗で美しいのが好きなのだからそれをイメージイメージ。
「わかったわ。でも一つだけ言わせてもらう」
私も雰囲気大事にしてそれっぽく言ってみる。雨を演出に加えて、雨も滴るいい女だ。
「言葉はもう不要」
「まあまあ、一言だけだから。初手から全開できなさい。それしかない」
「いわれるまでもない!!」
再び消えるベルグ。次の瞬間には私の脳天に回転がかかった槍が見えて、更にその後ろから大口開けた牙の列が迫ってる。私はでも、微動打になんかしない。一人と一匹……その渾身の攻撃が私へと炸裂した。私の思惑通りにだ。