H326
「今なんと?」
私は書斎で仕事をしつつ、報告に来た秘書官にそう返しつつ頭を抱えることになった。
「はいハゲ様。今さっきアナハイムよりラーゼ様から連絡が入り、クリスタルウッドの緊急事態だから援軍を要すると言うことでした」
「援軍は問題ないです。この世界でラーゼ様ほどに大切な人はいないのですからね。でもなぜに今ここで市中に降りてらっしゃるのか?」
「あの方が本気になれば誰も求めることはできませんよ。それはハゲ様だって一番よくわかってるはずです」
「それはそうですが……」
私は大きく息を吐く。仕方ないことだ。彼女の言うとおりにラーゼ様を本気で止められるものなどここにいない。なぜならば皆がラーゼ様を愛してるからだ。
愛してしまったものの弱みというか、本気で彼女を悲しませてしまう様なことは絶対に我らはできない。
「とりあえず現状のまとめといきましょう。オウラム攻略はどうなっていますか?」
「報告では源泉である火山への侵攻を開始したとのことです」
「アクトパラスとゼンマイ種の動きはありますか?」
「今のところその報告は来てません」
「ラーゼ様の報告では奴らもまだ健在だと言うことですが……こちらから動きを把握するのは容易ではないですね」
「各地に放ったアンティケイドたちに期待するしか今はありません」
「そうですね」
すでに世界の頂点を決める戦いの火蓋は落とされている。私たち人種は信じられないことにその戦いに参加、いや中心にいると言っていい。
最弱とまで言われてた人種である私たちが、この頂点を決める戦いに参加してるのはひとえにラーゼ様という女神のおかげ。彼女の存在が日陰だった人種の命運を変えたのは誰の目にも明らかだ。
だからこそ彼女を失うわけにはいかない。絶対にです。そしてそのラーゼ様が緊急事態と言うほどの状況。
最前線はオウラムだと我々は考えて様だが、どうやらその考えは間違ってた様です。
(でも、思えばいつもそうだったじゃないか)
それを私は思い出す。いつだって出来事の中心はラーゼ様だった。あの方がいる場所から大きく世界は動く。なら今回だってそうかもしれないと想定しておくべきだった。
どんなに戦場が遠くても、なぜか世界の大きな流れの中心にラーゼ様はなってしまう。きっとそういう星の下に生まれた方なんだろう。
「ついさっき報告にあったアナハイムでの未確認の種による攻撃ですが、関係がありそうですね」
「そうでしょうか?」
「ええ、先に王城とそれに人が多いタワーを攻撃してクリスタルウッドを狙ったかのような……そもそもがクリスタルウッドの現状は報告来てるのですか?」
「いえ、ラーゼ様からの一報だけです」
「それはまずい! 今すぐにロイヤルガードとヌイグルミたちをクリスタルウッドへと送り込んでください!」
私は思わず立ち上がって指示を飛ばす。クリスタルウッドに何かがあってそれがラーゼ様に伝わるほどなのに、我らにはそれが来てない。これはつまり、静かにクリスタルウッドの周辺が制圧されたとみるべきだ。なら今まさにそこに向かってるラーゼ様は敵が待ち構えてる場所に飛び込むようなもの。
いくらあの方の防御力が高いと言っても、例外はある。そして私はそれを恐れてる。何よりも怖いのは、あの方がこの世からいなくなってしまうこと。
だからこそ、私たち最善を尽くさないといけない。




