H321
(お、来た)
周囲を民衆たちに囲まれる中、私の頭には信号が届いてた。それはさっき送り出したヌイグルミから届いたものだ。とりあえずこの意味が分からない奴らの言葉は聞き流しながら、私はぬいぐるみから送られてくる信号に意識を集中する。
「あれが敵ね」
なんか中々に特殊な見た目してる。体はとても人に近い。けどまあなんか赤黒く、中央に赤い何かがみえる。そして一番おかしなところは頭だろう。はっきり言うと、敵には頭がない。
首はあるけどそのうえが無いのだ。いや、もっと正確に言うなら、首が先から別れてる? みたいな。 わかりやすくいうなら、首が開いてる。まるで三枚におろされたみたいに、首の先が三つに分かれて赤い肉を見せて体に垂れてるのだ。
はっきり言ってかなりグロい。もしかして、すでに決着がついてる? 本当はあそこにちゃんと頭があって、兵士たちがそれを吹き飛ばしたのかもしれない。
まあ全然元気に動いてるからその線は薄いんだけどね。多分だけどあれがデフォルトなんだと思う。
(なんか首の上に魔方陣あるな、とりあえず種族を特定しないとね)
もちろん兵士たちもやってると思う。でも私なら直接エデンのデータベースへとアクセスできるのだ。あくまで下におろしてるのはデータの一部であって全部ではない。てかエデンのデータは膨大でそれを全部別の場所に移すなんてことは今のところ出来ないんだよね。
でも私はエデンの王。エデンと私は結ばれてる。それは私とゼルの魂の回廊とは違うけど、私とエデンの特別なチャンネルだ。まあ実際深いところの技術はさっぱりだからいくら私が自由にエデンの知識を引き出せる――といってもたいていは宝の持ち腐れだ。
私では理解できない知識ばっかりだからね。そういうのはネジマキ博士や研究者たちに渡して身になるのを待つしかない。でも種族を表すデータ位なら有用に私だって使えるのだ。
(どれどれ検索、検索)
視界に色々な情報が表示される。脳内でぱらぱらとめくられるデータ。その中から該当する種は……
「イタ!?」
ズキッと私の頭に痛みが走る。一体何が? と思ったら、何やら私の体が光りだした。
「え? え?」
混乱する私の頭に、クリスタルウッドの光景が移る。
「まさか、私を呼んでる?」
「ひ、光ってるぞ!」
「なんだこいつは!!」
「凄い、なんて神々しさだ!」
周りがうるさいな。まあ一人、私の神々しさを感じ取った奴だけほめ……いや、あのうざったらしい演技臭い奴だったからさっきの言葉もなしって事で。
そんな事よりも……だ。クリスタルウッドが何かを訴えてる気がする。
「いかないと」
私はそうつぶやいて、一歩を踏み出す。けどその前に一人の男が立ちふさがった。死にたいのこいつ?
 




