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#116

「私達って二人して学校に行きたいって事?」

「そう!」


 押し返したのにまたズズイっとくるキララ。この子大概距離感が可笑しいね。ちょっと前まで生体兵器として他人に興味無かったのに、今は色々とチヤホヤされてベタベタしちゃう癖がついちゃったみたい? 多分初めて知った人の温もりが心地よかったんだろう。だからキララは誰にでも優しくする。他人でも自分ならなんとか出来る……とか思ってる。

 学校か……ある意味いい機会かもね。

 

「その学校ってなに?」

「それは僕から説明しよう」


 そう言って勝手に部屋に入ってくるのはカタヤだ。やっぱり今日も居るのね。ほら、いつだってアンタが亜子にくっついてくるから、亜子がさっと距離とってんじゃん。

 

「別にいいから出てってよ」

「え? いや……」

「二人だってその位理解してるでしょ? なんせ自分達で行くって言ってるんだしね」


 私のその言葉にコクコクと頷く亜子。だけど、キララの奴はカタヤの奴に気があるから再びバンっと机を叩いて来た。

 

「ちょっとラーゼ。そんな言い方ないよ! カ……カタヤさんは私達の事をおおおおもって……言ってくれてるんだよ」


 なんでわざわざ赤くなるのかね? 自分で言った後に「きゃー」とか言っちゃってるし、ほんと頭お花畑だなって思う。なんかキララが眩しい。少し前までその目に光が無かったとは思えない奴だ。亜子の奴は「余計なお世話」とボソリと言ってるけど、カタヤの奴はそれでもめげずに「コホン」と咳払いをして仕切り直しやがった。

 

「彼女達は『セルラテント王立学園』にかよって貰うことになる。この学園は未来のセルラテントを担う者達が集うこの国最高の教育機関だ。だから安心してくれたまえ」


 何を安心するのかよくわからないね。最高の教育機関って所? てかよくそんな所に通えるね? 二人共素性不明みたいなものだけど。

 

「まあ最初は亜子さんだけをアンティカの正規のパイロットにするために、それ相応の教育をという話だったんだけど、彼女も通いたいと言い出してね」

「なるほど」


 身分不相応の何処の誰かも分からない奴をパイロットにするのを反対してる奴等はいっぱいいるからね。それ対策に亜子に教育を受けさせるってのは納得出来る理由だね。ネジマキ博士とかなら、最高の教育機関って所にもねじ込める力があるんだろう。

 

「亜子はわかったよ。けどなんでキララも行きたいの?」

「学校に行ってみたいってのも当然あるけど……私はもっと沢山の人を救いたい!」


 おいおい、頭パーの子がなんか変な使命感発揮しまくってるよ。私のせいかな? 実を言うとこの領地には新しい宗教的な物が出来つつある。それは「聖女教」なる物だ。単純に言うと、聖女様の力で奇跡を授かった(と勘違いしてる人達)と思ってる人達が集まった組織である。そもそもその力は私の力なんだけど……まあ使ってるはキララだし、キララが崇められてる。

 

 宗教ってあんまりいいイメージが私にはない。それは亜子も同じようで、多分向こうの世界の記憶があるからだろう。けどこの世界の人達は結構そういうのに執着してる。この世界では弱い人種は常に何かにすがりたいのだろう。だからまあ御しやすくなるかなって思って、協会っぽいのも建ててあげた。まあまだ建設中だけどさ。

 毎日キララは仮の掘っ立て小屋で信者あいてに何やら適当な事をほざいてるようだ。そしてそれをありがたがって聞く信者ども……私は怖いから一回見て関わるのをやめた。

 

「僕もこれはキララさんにも必要な事だと思う。彼女は自分の力の使い方をもっと知るべきだろう。王立学園なら魔法のことだって色々と学べる」

「なるほどね」


 確かにそれは有意義かも。キララが頭パーでなくなれば、色々とやれることも増える。それに学校ってのは色々と複雑な人間関係の坩堝。キララのお花畑になってる頭にもいい影響があるでしょ。沢山の悪意をキララは知ってる筈なのに、それを頭の隅に追いやって自分に優しい声だけに耳を傾ける。それは危険だよ。キララが本当の聖女になりたいのなら、悪意から逃げちゃ駄目だろう。

 その覚悟があるのかは知らないけどね。けど、キララはきっと学校で問題にぶつかるだろう。だってキララって力だけで見たら、人種のそれじゃないからね。やっかみ妬み……それらを絶対にうける。

 

 なかなかに面白いかもしれない。

 

「亜子は強制なのよね?」


 そもそもが亜子を正式なパイロットにするための提案なんだから、多分亜子に拒否権ないよね? いや、拒否したらアンティカには乗れなくなるって事か。それは実際、亜子には出来ない選択だから、この提案に乗るしか無い。だから憂鬱そうなのね。

 

「はあー、この世界でも学校なんて……しかも私は軍事教練がある方に入らないと駄目なんだって……運動とか苦手なんだけどな」

「それは……ご愁傷様」


 亜子の方は呑気な学園生活に華を咲かせるって感じじゃないね。実際どんなカリキュラムかはしらないけど、軍事教練とか言葉からしてもう絶対キツイやつじゃん。同情を禁じ得ないよ。私は椅子の背もたれをグイッと倒して一回伸びをする。そしてこういった。

 

「良いんじゃない別に?」

「ほんと!?」

「私がアンタのやることに口出した事あった?」

「まあ……そうだけど……お金かかるし」

「え? そうなの?」


 マジ? タダじゃないんだ……それは予定外。

 

「ちなみに幾らぐらい?」


 私はカタヤの方を見る。すると一枚の紙を机に置いてきた。ふむふむ結構な額ですね。てか一人分しかないけど? これに☓2すれば良いのかな? 

 

「亜子さんの分は免除される。なにせ彼女はアンティカのパイロット候補だからね」


 なるほど、アンティカのパイロットは最高戦力になりうる存在だしね。そのくらいは優遇してくれるって事か。ありがたい。

 

「ダメ?」


 キララの奴が潤々とした瞳で私を見てくる。男ならそれにメロメロだろうけど、私には効かないよ。まあだけど、キララにはちゃんとした魔法の知識が必要だとは思ってた。これは将来への投資だと思うしか無い。そもそもが学校がそういう場所だしね。優秀な若者を育成して将来に投資してるんだ。

 

「いいよ。払ったげる」


 お金握ってるの私じゃないけど、蛇もこれなら納得してくれるでしょ。それを聞いたキララは「やったー!」とピョコピョコと飛び跳ねてる。楽しい事ばかりじゃないだろうけどね。けどまあ、応援してあげよう。幸せにはしてあげるつもりだし。

 

「あっ、ちなみに王立学園は寮制だからこの他にも別にこれだけかかるから、よろしく」


 そう言って追加された紙を見て私は考えを改めようと口を開く。けど、言葉は出なかった。だってキララが本当に嬉しそうだったんだもん。カタヤの奴、計ったな!! 私がキッと睨みつけると、何食わぬ顔を背けやがった。

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