#114
驚いた皆が次は何やら笑い出す。おいおいどういうことだよ。私は笑うの好きだけど、笑われるのは理由に寄ると不快に思うタイプだからね。まあ皆楽しそうに笑ってるんだけど……
「そんなに可笑しい事?」
「それはそうでしょう。幻の大地は未だ誰も到達出来た者は居ません。それは上位種とて例外ではない。ですがラーゼなら、納得も出来るな――と」
「確かに」
「うんうん」
「ラーゼ様なら納得ですじゃ」
皆、私ならまあいっかって感じらしい。私の印象とは一体? 美少女なのは確定だが、やっぱりそこに『謎の』があったか。
「それで、その場所は楽園でしたか?」
「ううん。少なくともそうは見えなかったかな。廃墟だったし。けど……背中から羽が生えてる人種っぽい人達が沢山カプセルのなかで眠ってた」
「それって天空人って奴なんじゃない?」
亜子が身を乗り出してそういった。確かに話の流れ的に、そうなるね。てか多分そうなんだろう。てかメルなら知ってるんでは? 私は窓の外のメルに聞くよ。
「そうなの?」
「そうですね。私の中の記憶とも一致してますからそうかと思われます」
「廃墟だった理由は? てかそもそもなんで天空人はあんな事に成ってるの?」
「それは存じません。確か何やらあった筈です」
案外メルも適当だよね。何やらあったのはわかるよ。その何やらが知りたいわけで……
「何やらって何よ?」
「覚えてません。ですが一つ言えるのは、そこで私の記憶は途絶えてる。つまりは世界のマナがその時から減少に転じたのでは?」
マナ生命体であるメルが消えたとなれば、そういうことなのかもしれない。そしてだから天空人もあのカプセルの中に入らざる得なかった?
「なにか昔あったの?」
「昔と言っても……それは人種や、獣人である我等には及びもつかない過去でしょう。長命な種なら、何か知ってる者も残ってるかもしれませんが……」
蛇の奴は歯切りが悪い。考えられるのは世界大戦とかそんなん? 今はそれなりだけど、昔はもっと種族間での戦いは激しかったらしいし、はるか昔となれば、もう遠慮なんて無かったのかもしれない。
「まあ何があったかは気になるけど、そこまで重要でもないよね。ようはたどり着けば良いわけだし。そこらに浮いてるんでしょ?」
「見えてもたどり着く事は出来ません。そんな簡単に行けるのなら、いつまでもおとぎ話になど成ってませんよ」
それもそうか。けどここにはメルがいる。行き方だって知ってるかも。
「メルは行き方しらないの?」
「私達は存在する側です。そこにいただけで、辿り着いた訳ではないのですよラーゼ」
「なるほど」
確かにそうか。メルはマナが濃い場所に現れる存在であって、移動ではなく、出現してるんであってたどり着くとかいう概念がそもそもない。だから何故そこに居たのかと問うてもメル達からすれば、そこに有っただけなんだ。これでは行き方なんてわからないね。
「役立たず」
「ちょっ!? 母よ。その言いぐさはあんまりです」
なにやら抗議してくるが、実際役に立ってないから無視だ。てか撤回したいのなら、何か有益な情報を渡してほしい。
「彼等はそうですね。うーん……美味しいマナを沢山くれました」
「さよなら」
「母よ! そん――」
ピシャっと窓を閉めた事で聞こえなく……なってないね。全開にしてたから、実は普通に聞こえる。私に見放されたと思って泣いてるメルは気付いてないようだけど。とりあえず皆の元へ近づいてこう言うよ。
「どうしよっか?」
「私は……なんとしてもそこに行きたい!」
強い目でそう言い切る亜子。それに少しだけ寂しそうな顔をするのはカタヤだ。妹に重ねてるからね。けど、そんな思いを振り払ってカタヤはいうよ。
「それなら僕は博士にも話してみるよ。あの人なら約束の地に行くすべも思いつくかも知れない」
「こちらも調べてはみましょう。ですがまだ誰も未踏の地だと言うのを忘れないでください」
カタヤは希望を蛇の奴は釘を刺す感じでそういった。それに亜子は頷くよ。これで一端この話は終わり。船でも買えば、お試しに行ってみても良いんだけどね。さすがにホイホイ買える物でもないよね。博士に頼めば貸してくれるかもしれない。けど何があるかわからないし、そこを目指してた人達が無事に戻ってきたのかは分からない。
つまりはなにかの危険があるのかも……私が思い出すのはあの機械兵共。あれに襲われたらヤバイ。もしも船を台無しにしたら請求されそうだしね。だからホイホイ借りれない。だから目処が立つまでは保留だね。
メルが言うにはまだ一・二年は猶予あるし、その間になんとかなるでしょ。そんな風に思ってると階下から漂って来る美味しそうな匂いにお腹がなる。そういえば朝食もまだだった。とりあえず今日の予定はなんだっけ? 領主として、今日も一日頑張らないとね。そしてそれはいつか頑張らないでいい日が訪れるためでもある。