H160
アルス・パレスから放たれた光が空中に漂う気持ち悪い黒い物体に衝突する。そのエネルギーは相当なものなのか、空中を悠々と漂ってた黒い物体は木々を押し倒して地面をえぐる。でも……その触手が気持ち悪く伸びてくる。向こうは地面てこっちは空中だ。かなり距離はありそうだが……あの触手に伸ばす上限なんてないのか、アルス・パレスへと真っ直ぐに伸びてきた。けどその触手ははじかれた。
『汚らしいやつだ!!』
そんな声がモノクロのアンティカから聞こえたと思ったら、断続的な振動が響く。そして砲撃が落ちたあの黒い物体を染め上げていく。止むことがない砲撃が五分……いや十分は続いただろう。砲撃を受け続けた部分は煙で見えないが、炎が周囲の木々に移ってこのままではやばいことになりそうなのはわかる。
(もしかしたら、これで生贄にされる事はなくなった?)
とか淡い期待を俺は抱く。あれが世界の半分以上を取った種だとはどうしても思えないんだ。なにせ見た目完全に化け物だし……どんな種にも知性というものがあるものだ。だが、あの化け物にはそんなのは見えなかった。今一番の種がそんな訳はない。だからこそ信じれないんだが……これだけの砲撃でも、煙の中から、元気にあの黒い物体は触手を伸ばしてくる。
「効いてない?」
『驚くことではないな。奴らはそれこそたくさんの種を取り込んだ……その取り込んだ種の特性を組み合わせて使ってるんだろう』
「あれが……そんな高度な事を?」
にわかには信じられない。だが、このモノクロのアンティカがそうやって教えてくれることも不思議だ。まあ多分、すぐに殺すから話しても構わないってことなんだろう。
『あれはとても複雑で怪奇だ……まあ人種程度にはわからないだろうが』
確かに角があっても俺にはわからない。あれがとてつもない力を宿してるってのはわかるが……でも力があるだけなら……と思ったが、さっきの話を聞く限り、あれは適切にそれを使ってる……のか? そもそもがあれ自体が、本当にゼンマイ種とオクトパラス種とは限らないというか……その2つの種が操ってるとかが大きそうな……あれはもしかしたら、俺達の移動手段みたいな感じでは? そうだとしたら、趣味というか……センスを疑うが……でもこのモノクロのアンティカはあれをその2つの種と断定してるところがある。
まああのとてつもない力はそうとしか思えないってことなんだろうが……上位種なんてのは世界の常識を軽く超越していくやつらって認識が俺たちにはある。なにせ人種の遥か高みにいる奴らだ。だから、どんな荒唐無稽なことでも起こり得る……と思ってる。
でも人種以外の種はそうじゃないのかも……計れると思ってる部分がある。
『やはり餌が必要だな』
そう言って、モノクロのアンティカは俺たちを握ったまま飛んだ。背中の部分の装備が開き、上昇していく。それに合わせて扉のようなものが開いていく。そしてようやく青空が見えた。臭い……森が焼ける匂いがここまで届いてる。モノクロのアンティカは更にアルス・パレスを上昇させ、自身は下に向かって飛び、邪魔な触手を取り出した剣で切り裂いていく。
(今、どこから剣を?)
こいつは装備してなかった。というか、空間に手を突っ込んだように見えた。アンティカの力なのか、それとも乗ってるやつの力なのかわからないが、このアンティカがかなり厄介な代物なのは理解できた。俺たちは左手に纏めて握られている。剣を取り出したからな。
「ボス、このままじゃ……」
「わかって……が……どうしようも……」
ぐんぐんと高度を落として地面から再び空中に上がろうとする黒い物体に近づくアンティカ。そうしてある程度近づいたら、左腕が振りかぶられた。
『せいぜい俺たちの役に立って死ね!!』
その言葉を最後に、アンティカが俺たちを投げる。俺たちはまっすぐに黒い物体目掛けて落ちていく。




