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110/2417

#110

 再び朝が来た。私はベッドから起きて、外を見る。

 

「異世界だなー」


 そんなことを呟いてなんで自分がこんな所に居るんだろうと、いつも通りに思う。その答えは誰に聞いても出ない。いや、もしかしたら私の中に居たミリアはその答えを知ってるのかしれない。けど、そのミリアはこの異世界に来たと同時に居なくなってしまった。その声は何度呼びかけても私に返ってくる事はない。この世界に来たことは、毎日の様にこうやって事実と確認出来る。

 けど――

 

「ミリアは……私の中に本当に居たのかな?」


 ――そう思いだす自分が居た。もしかしたらだけど、ミリアなんて存在は本当は私の中には居なくて、ただたんに私の痛い妄想では無いのだろうか? 話してた時は確かに存在を感じてた筈だけど、こうなってしまうとあんな事ありえないのでは? と現在進行系で異世界の世界観にひたりながら私は考える。実際何が本物で、何がおかしくなったのか……わけわからない。

 流される事に慣れてるから、なあなあで今までやってきたが、今日は何やら酷く寂しく感じる。

 

「答えてよミリア……なんで私はここに居るの?」


 そんな言葉は虚しく朝の空気に溶けていく。それにしても……と思う。随分と気持ちいい風が吹くようになった。最初、ラーゼ達とこの土地に来た時は、こんな所で暮らすなんて無い無いと思った。そりゃあラーゼは私と同じで向こうの世界の事を知ってる唯一の人間だし、離れたくなかったよ。けど……こんな何もなさそうな所で暮らすなんて……と思わずには居られなかった。

 だって私は花の女子高校生だったんだよ。それなりに美にだって気を使ってた。けど最初訪れたここは、乾燥しててカラッカラの風しか吹いてなかった。肌に悪そうだなって最初に思ったよ。

 

 ラーゼは全然そんな事気にしてる風も無かったけど……あいつアレだけ規格外の美しさもってる割には自身の美に無頓着な節がある。なんかイライラするよね。私が幾ら……いや、世の女性たちが幾らメイクや整形をしようとアレには一ミリだって届かない。そう思わざる得ない程の美しさなのに、それを別段ありがたがってないというか……さも当然でしょ、と言わんばかりだからね。

 

「ラーゼは帰りたいと思わないのかな?」


 でも今までのアイツを見てて、それは無いか……とも思う。だってアイツ、楽しそうだもん。毎日がドタバタしてて、きっと向こうの世界を振り返ってる暇なんてなさそう。それに前にちょろっと聞いた時、ラーゼはそこまで鮮明に向こうの事を覚えてるって訳でもないって言ってた。ただ向こうの世界に居たと漠然とわかってるだけみたい。

 私みたいに家族や、友達の事を引きずってないアイツが羨ましい

 

「お父さん……お母さん……お兄ちゃん……それにみんな……心配してるかな」


 そんな事を口ずさむと、一気にホームシックが襲ってくる。普段は成るべく考えないようにしてるけど、こういう朝の一人の時間は、思わず思い出す。それに夢で見るんだ。夢はいつだってあっちの世界でいつもどおりの日常を送ってる自分がいる。夢から覚める時、その光景がどんどんと遠くなってくのがとても怖い。もう……戻れない……そう暗に言われてるようで。

 

(駄目……泣いたら……心が折れちゃう)


 そう思って必死に涙をこらえる。すると窓からヌッと白くて不気味な女性が顔を覗かせた。

 

「ひっ!?」

「失礼、何やら悲しげな感情が波打ってた物で」


 その人はメルとかいうめちゃデカイ女の人だ。全身白くて、目だけが蜂かトンボみたいになってて結構キモい。けど、獣人とか居るこの世界……人形ってだけで、少しまともに思えるんだけどね。

 

「なんでも……ないです」

「そうですか? 貴女は異界の人のようですね」

「わかるの?」


 びっくりだ。見た目では分かりようが無いはずだけど……

 

「わかりますよ。異界の人は匂いが違います」


 そういわれて、私は自身をクンクンする。臭ってないよね? 昨日もお風呂入ったし、それは無いはず。

 

「マナの匂いなので普通の生命に感じ取る事は出来ません」

「マナ……」


 それはこの世界でメインと成ってるエネルギーだと聞いた。この世界の生命はマナがなくては生きていけないと。

 

「マナは異界にもあります。ただ気付いてないだけですよ。そしてそれぞれの世界でマナは違う。だから私の様なマナ生命体はそれを感じ取れます。異界の人はマナが違うと」

「マナが違うと何か問題があったりしますか?」


 この人? なんか人知を超えた何かの様な気がして、自然と敬語になってしまう。

 

「それはないですね。ですが、マナが染まり切ると帰れなくはなります」

「え?」


 ピヨピヨとどこかで鳥のさえずりが聞こえてた。朝食の準備をする包丁の音も聞こえる。そんな何の変哲も無い朝に、私は最大級の爆弾を落とされた。

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