H123
「アンサンブルバルン総司令、アンティケイドとは一体……」
『それは今は大事ではないでしょう。大切なのはオウラムにダメージを与える事。それが我らがラーゼ様の為になる。それ以上に必要な事がありますか? あの方に褒められたくはないのですか?』
アンティケイドの広くなった顔に映るその中から、アンサンブルバルン総司令はそんな事を言ってくる。俺達はこの国の裏を担う硬派な集団だぞ。そんな褒められなんて……
「褒められたいです!」
「よしよしされたい!」
「笑顔を向けられるだけで幸せです!!」
おいお前等……硬派とは一体。俺達の名前を聞けば、権力者達は震え上がる……そんな存在が俺達だった筈だろう。それなのになんだこれは。確かに……確かにラーゼ様は美しい。それはもう見惚れる程にだ。自分たちが抱いたどんな女よりその姿は隔絶してると言っていい。
でもだからってなお前等……
『ふふ、仕方ないですよ。なにせあの方を前にしたら、我々はただの男でしかありません。抗えないですよ。どんな強者であってもあの方の美しさには』
それは……免罪符ですか? アンサンブルバルン総司令は俺を見つめていってる。俺にもその本心を曝け出せと……そう言ってるかのよう……俺はこの角が生えた時の事を思い出す。体にこんな物が生えるなんてのは普通は恐怖だろう。なにせ体が変質してる訳だからな。だがそんな恐怖よりも俺は興奮の方が上回った。
それはこれが生えた時に、ラーゼ様の声や指令か流れ込んで来たからだ。あの方に一瞬、包まれてる様な気がした。それがなんと心地よかった事か……あの時俺の全ての不安は溶かされたんだと思う。そしてそれを知ってるからこそ……他の奴らとは違う程に俺自身はラーゼ様を実は渇望してる。だからこそ、アンサンブルバルン総司令の今の言葉は魅力的だ。
だが、俺はこの部隊のボスとしての矜持が!
『私が交渉して出来うる限りの貴方たちの着せたい衣装をラーゼ様に来て頂く事を約束しましょう。貴方たちの理想の姿のラーゼ様に甘える権利、この作戦を生きて成功させたなら、それが手に入ります』
「ファーストシングルの衣装でお願いします!!」
我に返ったときには、既に俺の口からその言葉が出た後だった。
「くっ」
恥ずかしい……だがそんな俺を笑う仲間はいない。寧ろ俺の後から自分の希望の服装を叫ぶ奴ら共……やっぱりお前等、最高だぜ。
『わかりました。皆さんの雄志に期待します。任務はアルス・パレスの破壊、もしくは稼働を阻害させる事です。そしてこのアンティケイドは貴方たちの手助けをしてくれます。大丈夫、パウジーフラワーの時の様にはなりませんよ』
ああ、アンティケイドってあの時の……全然見た目違うからわからなかった。これが仲間……か。まあ沢山の種が既に混じってるし、今更だ。俺達は特大のご褒美の為に任務を遂行する。ただそれだれだ。




