H95
「力の量なら負けないはず」
私はそう思いつつ、飛び続ける。一応矢印は見えるし、こいつをオウラムに押しつける事が出来れば、めっちゃ私達にとっては良い事だしね。奴の攻撃も今の所、力を行き渡らせたアンティケイドの体を抜くことは出来てない。でも気になる事はこの代わり映えのない風景だ。
何も見えない。いくら何でもおかしくない? 私とあの黒いスライムみたいな空中に浮いてる奴はそれなりに距離はある。あれがデカくて空という性質上見えてるけど、地上だったらきっと見えないくらいには離れてる筈。それだけの距離があってもその攻撃に空間が真っ白になってるってのがね。
最初は一瞬だと思った。でもなんか違う。さっきから空も地上もない。飛べるからずっと飛んでるけど……幾ら呼びかけてもネジマキ博士も出ないし……なんか捕らわれたくさい? けどまだ確信はない。もしもヤバくなったら、このアンティケイドを捨てるだけだし……あの黒いスライム……というかゼンマイ種とアクトパラス種の手の内はできる限り見ておきたい。
実際、この黒いスライムみたいな物がなんなのかわかってないしね。言っとくと、ゼンマイ種とアクトパラス種はこんな見た目ではない。それぞれちゃんとした一つの種としての肉体がある。当たり前だけどね。融合に失敗した? とかいう線もあるけど……わからない。
でもあれがゼンマイ種とアクトパラス種の支配地域にあったことは確かだし、他にめぼしい物が無かったのも確か。だからアレはきっと何かある。
「え?」
私は急停止した。なぜなら、後ろにあったはずの黒いスライムが前に現れたからだ。
「これってやっぱり……結界かなにか?」
うすうすはそんな事を想ってた。私は視界の矢印を見る。同じ所をずっと指してるが……結界の中じゃ……ね。こう言うのの定番はまずはこの空間を壊す事が先決だろう。私だって伊達に偉い立場に居るわけじゃない。そういう対策を実は耳をすっぱくきかされてはいる。
結界と言うのは総じて繊細な物だ。そして維持するのだってただではない。常に力を使う。ただの人種ならそれこそこういうのに捕らわれると苦労する……というかほぼ詰みだけど私は違う。私の膨大なマナで内側から力を満たして強引に結界自体を壊すというやり方がある。
「むむ……」
なんか出すマナがあの黒いスライムに吸われてるんですけど!? あの野郎、周囲のマナを力に変える事が出来るらしい。これじゃあ、この空間を私のマナで満たす事はできない。本当なら私のマナを与え続ければ、他者のマナを取り込み過ぎで自爆……を狙えるんだけど。なんかアレには無理そうな気がする。
これは直感だけど、私だってそれなりに命のやりとりはしてきた。だからそう言う勘があってもおかしくないでしょう。自分の体の中にあるマナは奪われる事はない。アンティケイドと私自身の繋がりがたたれないのも、きっとその回廊が特別な物だからだろう。
「でも困ったな」
これはオウラムに押しつけたい訳で……私が頑張って戦う……なんて事は実際したくない。
「よし! 逃げるの止めた!!」
私はそう言って黒いスライムに突っ込んだ。もう色々と考えるのもそして逃げるのもやになったんだよ。こうなったら、あの存在を解明するために、このアンティケイドの体全部を使ってやろう。なに大丈夫、だって私の本体は別にある。
私は黒いスライムの内部へと突進する。




