H56
「大丈夫か!?」
俺は抜いた花を放り投げて、倒れたボールに駆け寄った。でもその時、頭にサポの声が響く。
(後ろです!)
俺は振り返るよりも早く銃を後方に撃った。すると変な声の様な物が聞こえる。振り返ると……そこにはボールの見た目を模した、植物の集合体がいた。まるでボールからその皮を剥がしたみたいなその見た目……正直言って気持ち悪い。まさかさっき頭から抜いた花か? ボールの体型を模してるのは、奴には咲いてたからだろう。俺は更に撃つ。単純な玉では効かないのなら、炸裂するようにカードをスライドさせた。そして撃ったが……
「ちっ!」
確かに普通の玉の時よりは効いてる。でもそれだけだ。倒すまでは至らない。直ぐに再生しやがる。体が植物だからか、ツタが伸びて傷ついたところを覆ってしまう。
「サポ、ボールはどうだ?」
(生きてはいます。傷自体はそんなに大きくはないみたいです)
派手に血が飛んでたから、やばいと思ったが、命に別状はない? でもこのまま出血させてると、その内死に至るだろう。
(回復させます)
「頼む」
俺は目の前の花の化け物を見つつそう返す。周囲では派手な音がしてるが、こっちに攻撃が来ないのは、多分デカいのはリリアが相手をしてるからだろう。他の所もこんな奴が出てきてるんだろうか? 気になる……が何やらピクッと奴が動いた気がした。その瞬間、足下から根が取り付こうとしてくる。俺にも花を植え付ける気か!! 俺は素早くカードをスキャンして、銃口の先にエネルギーの剣を出す。刃渡り五十センチ程度だが、このくらいのツタなら切れる。出力を上げれば、更に刃渡りは大きく出来る。それにこれのメリットは、エネルギーが放出されないことだ。銃弾として放つと、勿論エネルギーは帰ってこない。だから消費するだけに成る。
だが、これなら、エネルギーがとどまってる訳だから、とても長く持つ。まあ実際にはロスするエネルギーが有るから、永遠にこれを出しておけるわけじゃない。それにエネルギー体だから防御とかには向かないしな。上手く切れないと、こっちのエネルギーが拡散する。そうなると、構築するのにまたエネルギーを使うから、扱いは結構難しい。だが、俺達なら問題ない。俺は移動しながら、追ってくるツタを切り刻んでいく。花の化け物……パウジーフラワーの真の姿なのかわからないが、それは手を向けてくる。そして伸びる両腕から大量のツタが――1個じゃ間に合わないと判断した俺はもう一丁銃を取り出してそれも刃を出して応戦する。
(離れるのは不味いか? だが、あいつは近付くのを狙ってる気もする)
なにせここは奴のフィールドだ。さっきから実はちょくちょく、足下の草を結んで脚を引っかけようとしてきてる。地味だが……めっちゃ地味だが、効く戦法だ。なにせ足下は花が覆ってる。足下は見えないからな。そこで地味に輪っか作られたら見えない。なんとか成ってるのは地味にサポが教えてくれてるからだ。あいつの言葉は頭に直接響く。実際パウジーフラワーが俺達の言葉を理解してるのか分からない。種の中には独自の言葉を喋る種は少なくないし。だが、この世界で生きてる限りマナが繋げてる物も有る。だから奴が、パウジーフラワーがあんな風に見えても言葉を理解してる可能性はある。
そうなると俺がことごとく奴の嫌がらせを避ける理由を察せられる事になるから、脳内に直接語られるのは結果的には良かっただろう。一定の距離を保っての攻防を。だが、俺は絶えず目の前のパウジーフラワーを分析してる。そしてタイミングを計ってた。既に倒す方法は算出してる! 後は確実にそれを実行できる隙を作るだけだ。




