H28
道なき道をダンプが走る。既に道なんて物はなく、平原から林に入りに、そして荒野を走破してどでかい大河を渡った。どうやってあの大河を渡ったかというと、リリアがいたから簡単だった。それこそ本当に対岸見えないほどに大きな大河だったけど、一台は単純だ。リリアが持ち上げて投げた。そしてダンプが大河を渡るよりも速く自身が対岸に渡りダンプを受け止めた。それだけだ。単純だが……そんなことが出来るなんて普通じゃない。
なら残りの荷台もやってくれれば良かったんだが……魔族の二人がそれを許さなかった。魔族は飛ぶことが出来る奴も多いから、魔族の二人がダンプを持ち上げて飛んでくれた。リリアよりは時間が掛かるが、リリアのやり方は心臓に悪いからこっちの方が安全面では適切だ。でも最後の一台は自分たちで運ぶことになった。そもそもが本当ならリリアも魔族もここには居ないはずだったんだ。それなのにこのルートが指定されてるって事は、自分たちだけでも渡れるはずって事だった。
まあ確かに……でも支給された装備でもそれは出来そうになかった。だからここでの出番は助っ人として派遣された二人。バンセンさんとサポの出番だったわけだ。バンセンさんも見た目通りにパワーがある。だからダンプを担いで、リリアのように対岸に向けて投げた。まあ彼の場合は投げたと言うよりも撃ちだしたって感じだったが。そして最初から浮いてるサポが対岸に渡ってて受け止めるという寸法だ。サポは小さい。それにパワーだって無いだろう。どうやって受け止めるかというと、やはりそこは魔法だ。飛んで来たダンプをサポがいくつかの魔法を駆使して優しく受け止めていた。そして残されたバンセンさんは自信の跳躍力を持ってしてこっちまで来た。
これでミッションコンプリート――はして無い。ミッションはこれからだった。とりあえずだが、やはりこう言う場所もどうにか出来る様になってたという事だ。大河の向こうは深い森が広がっていた。ここまで実は二日くらいかかってる。これでも多分大分早い筈だ。何せ出てくる敵はリリアが速攻で退治してるからな。そもそもがリリアは異常に感知するスピードが速い。俺達にも高精度のレーダーが支給品としてあった。通信とかも兼ねてる高性能な腕輪型のデバイスだ。
まあ俺の場合はこの角に集約されてるのか、腕輪事態はしてないが……とりあえずリリアはこのデバイスに感知される前に動きだして一撃で屠ってる。そのおかげでロスする時間が無い。大河の所で一度大きな休憩を挟んだ。一応リリアとかにも気遣ってるからな。魔王だが……女性だし風呂に何日も入らないのは気にするかと……だが実際はリリアはいつだって清潔な服を着てそして小綺麗にしてるみたいだった。どうやってそれを実現してるのかは知らない。
だが戦闘のあとでもリリアが汚くなってることなんて一度も無い。無駄な気遣いだったかも知れない。だが……森に進むと一気にこの判断は正しかったと思うようになった。何せこの森は……魔境と化してたんだ。




